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差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2013年9月21日土曜日 10:31
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 狸湯(墨田区墨田)

ナカムラです。

今日(7/19)は、「狸湯(墨田区墨田)」に行ってきました。 東向島〔旧玉ノ井〕駅(東武スカイツリー線)から、0.8キロ、8分くらいです。

金曜日の夕刻。早々に会社をズラかって東向島駅(旧玉ノ井駅)へ。日比恒明著の「玉の井/色街の 社会と暮らし」収載の地図をもとに、久し振りに夕暮れ時の旧色町を散策する。

線路際に建っていた、この街のシンボリックな旧妓楼が解体されたことを確認し、グルメシティ(駅 前に移転)となっていた木造映画館の旧玉の井館、別府湯跡(旧玉の井湯)などを見て回る。玉の 井には何度も足を運び、隅々まで見尽くしたと思っていたけど、奥の奥にオリジナル度が高い旧妓 楼が残っていた。さらに奥へ踏み込むことはやめたけど、私道の奥の奥には、まだ往時の姿の建物 が残っているのかも知れない。しかし、玉の井は今も蚊が多い。

さて、旧カフェー街に隣接する隅田湯の前を通り、東武線のガードを潜り、狸湯に向かう。

日比恒明著の信じられない程の労作「玉の井/色街の社会と暮らし」の本を読み、同湯が戦災に遭わ ず、玉ノ井地域のお姉さん方が通った銭湯であることは分かっていた。しかし、いくつかの年代の 航空写真を眺めても、現在の建物が戦前からの建物かどうか判断が付かなかった。

訪れると、敷地の一角に戦前の建物と分る菓子屋を擁する、油井型の煙突の郷愁銭湯だった。同湯 もおおよそ築80年に及ぶ、昭和ひと桁世代の建物を今に引き継ぐという。都内でも屈指の古い建物 の銭湯ということになる。

ファッサードは、むくり破風妻入りの脱衣所棟に立方体に近いエントランス部が付属する。高窓は 簡素な三段の木枠。摺り硝子を通して、柔らかな光が漏れて来る。暖簾は紺地に家紋と屋号を白く 染め抜いたもの。気品を感じるレトロ銭湯だ。

やや長い花道には多くの自転車が停まり、出入りする客が引きも切らない。人気の銭湯のようだ。 暖簾を潜ると、古い銭湯ゆえにエントランスは狭い。両側にある下足箱が、Sakura2錠のアルミ板 鍵、透明な蛍光色のアクリル扉。外観とのギャップに驚かされる。

番台への戸を開けると、木組の番台。木目プリント合板で補修されている。脱衣所の広さは幅2間、 奥行3間。天井は折上格天井。広くはない空間ながら外壁側脱衣所方に、いずれの壁にも接してい ない独立した柱がある。古い構造だ。

最初は、古いゆえの小振りの銭湯だと思っていた。しかし、良く見ると、女湯の脱衣所と浴室の幅 が、いずれも3間強ある。実に女湯の広さは男湯の1.5倍強。昔からずっとだという。玉ノ井は、 戦前、戦後と女性の街。住人は圧倒的に女性が多かった。同湯の構造に、そんな玉ノ井の歴史が色 濃く反映されている。

ロッカーは、Sakura2錠の島ロッカーが縦置きに1つと、外壁側にある。丸籠も現役だ。

その他、珍しいKamoshitaのアナログ体重計、洗濯機2台、冷蔵庫、縁台などが広くはない男湯に ぎっしりと置かれている。

同湯は、表通りから奥まって建っている。レトロな2階家である菓子店のさらに後ろに、濡れ縁を 介し、たっぷり2間ほどの奥行を持つ前栽がある。庭池に水は無いものの、それなりに手入れがな されている。うまく表現できないものの、小さいながらもいい庭で、何より古風な印象を受けた。 そして、池の向こうに菩薩像だろうか、二体の石仏は、何か玉ノ井に因縁がありそうな気がする。

浴室は、幅2間強、奥行4間。天井は木板にペンキ塗りの2段型で、高天井部に井桁の意匠ととも にライトブルーのペンキが鮮やかだ。タイル類は全て更新されているので古い物はないのだけれど、 いい感じに狭い中に相客がひしめいている。これはこれで活気があって楽しいものだ。

島カランは1列で、カラン数はセンターから6・5・5・6。床のタイルは足触りのいいブルーの厚手 のもの。釜場への扉の幅の細さが印象的だ。

浴槽は奥壁に接するやや奥行きのあるものでバスクリンの薬湯の槽と主浴槽。主浴槽には、デンキ (非稼働)、7点座ジェット×1。さらに、1穴スーパージェットとボディマッサージが向かい合わせ にある。浴室が2間幅と狭いので、やや奥行きを持たせた浴槽にコンパクトに設備を入れ込んでい る。お湯は井戸水。薪がある時はそれを、今日は重油で沸かしている。湯温は42度くらい。客が多 いので、こなれた感じのお湯だった。

奥壁には丸山さんの「本栖湖(24.10.4)」。相変わらず”静”的な気品ある秀麗な富士山のペンキ絵 だ。小さな奥壁につき、外壁側に1間ほどL字型に回り込むように描いてある。丸山さんも御年78 歳くらいだろうか。今でも勉強されている。体力が要る高所作業なのに微塵も衰えを感じさせない。 一昨年は20数カ所だったと思う。去年は何枚くらいのペンキ絵を描かれたのだろうか。

金曜日の19:25から20:15に滞在。夕飯時をとうに過ぎた頃なのに、広くはない浴室に常時10人以 上の相客。延べ人数では20人を優に超えていたと思う。玉の井というロケーション、古さ、構造、 心地よい混雑。強く印象に残る銭湯だった。

上がりの一杯は、隅田湯隣の”十一屋”。こちらも赤線時代からの名酒場。最初に来た時は感動した けど、酒は安いものの料理はさほど安くはない。先代が見えなくなってから、少し、落ちたかも知 れない。しかし、名店であることにはかわりなく、そう思ってしまうのは期待が大き過ぎるからで もある。若い大将の奮起と成長を、切に願う。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
メイン:masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp  
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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                  大嶋菓子店に貼ってあった。




                   隣湯の隅田湯の隣にある十一屋