差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2010年5月8日土曜日 7:11
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: ときわ湯(加須市中央)

ナカムラです。

今日(5/3)は、「ときわ湯(加須市中央)」に行ってきました。 加須駅(東武伊勢崎線)から、0.4キロ、5分くらいです。

ボロ家の補修材料を調達するため、幸手の「ジョイフル本田(幸手店)」に行く。東京ドーム 1.5個程度という売り場面積は経験したことがないような大きなものだった。調達資材は宅急 便で送り返し、東武動物公園の「弥生湯」と「巴湯」に向かう。幸手市にも1軒だけ銭湯が残 っているものの「事情があって」休業中のようだ。

東武動物公園駅は、若かりし頃、勤務時間中に時間を潰すために栃木駅を往復する際に寄った 記憶がある。ただ、降りたのは駅裏の動物園の方。今回初めて見た古い町並みが残る西側は全 く雰囲気が異なっていた。「弥生湯」も「巴湯」もかなり惹かれる郷愁銭湯の趣があったけど、 何れも月曜日が定休日で営業していなかった。埼浴のサイトでチェックをしてきたが、今日は 憲法記念日の祝日(月曜日)で、迂闊にも日曜日と勘違いしてしまった。

日和って、地元の赤羽近くの銭湯にでもするかと思案していたけど、連れはせっかく遠くにや って来たので「埼玉銭湯の外観を見たい!(Wadyfarm氏制作)」を見ながら、なかなかやって 来られない銭湯に進む方がいいと「ときわ湯(加須市中央)」をピックアップ、加須に北進した。

加須は鯉幟の日本一の産地らしい。駅を出れば名物「鯉のぼり焼き」などがある他、田舎の目 抜き通りを歩いても人形店があって鯉のぼりと書かれている。

駅の目抜き通りを折れ、さらに少し奥まったところに同湯はある。暗くてよく判らないものの 土管を継ぎ足した油井型煙突を持つ黒瓦の伝統的木造銭湯のようだ。入口は奥まって、さらに トタンのブリキ板の屋根囲いがあってエントランス部分への視界はない。

創業は昭和10年頃。現在の建物は昭和38年築。暖簾はない。少し小振りのエントランスには、 旧型さくら錠の下足箱。傘立ての小さな錠は、さくらの花弁をあしらった珍しい旧型さくら錠 だった。

今日はかなり暖かい一日だった。同湯は入る前から男湯の脱衣所が見渡せるオープンな銭湯。 番台への扉も開け放たれている。埼玉県の料金は410円。脱衣所の広さは幅2間半、奥行3間 ほど。天井は天井扇がある激渋の折上げ格天井。一見してレトロそして雑然とした空間が広が っている。

番台の中にはいろんな物が散乱。男女境の鏡の前のソファがご主人の定位置のようだ。ソファ の端には数ヶ月分の新聞が平積みにになっている。

ロッカーは外壁側にのみ「さくら」の刻印がある旧型さくらのロッカー錠。主力は先代建物の 時代から引継がれた脱衣籠だ。フジの旧型マッサージ機は干からびている。「TOKYO KINZOKU」 のアナログ体重計は使われていない。ぶら下がり健康器には埃を被った忘れ物の雨傘が幾本も ぶら下がっている。脱衣所の観葉植物は、浴室との隙間を浴室の方に潜り抜け葉を茂らせてい る。大黒柱の黒時計は現役でゆっくりと時を刻んでいる。

浴室は幅2間半で奥行4間。客が小生だけということもあるけど、そこそこ広い銭湯だ。ネジ 棒を差し込んで捻る式の窓の鍵は全て壊れている。泥棒なんてお呼びでない原始的な空間が広 がっている。

島カランは鏡すらないプレーンな1ものが1列で、カラン数はセンターから6・5・5・5。床の タイルはかなりくすみが目立つ3センチ角の白いもの。恐らく40数年前からのオリジナルだろ う。

浴槽は、奥壁に沿って深浅2槽。深槽は何の仕掛けもなく、42度ほどの清澄な湯を通して、ボ ロボロの浴槽内部が映し出されている。浅槽は1穴ジェット×2。浴室の音といえばこれだけ。 静寂な郷愁空間にこだまする。

以前は加須駅のヤード止めの石炭を運び込んで湯を沸かしていた。その後、大鋸屑、自動車オ イルなどの廃油と移り変わって、現在は9割が廃材、残る1割が廃油を使っている。原油の高 騰は廃油価格の高騰をも招き、銭湯から廃油さえも奪って、扱い辛い廃材で湯を沸かすことを 余儀なくされている。

ビジュアルは、秩父・クラブ湯で見た行田市の塗装看板業の「エハラ尚栄堂」の絵がないかと 期待していたけど、恐らくはドンぴしゃ。10年以上は描き換えていないという山を背景とした 海原の図は、明らかに現役の「エハラ尚栄堂」上流に位置するもの。恐らくはクラブ湯の女将 が「先代は上手かったのよ」と仰っていた、その先代の絵だと感じた。東京の専門絵師と比べ れば稚拙なものだけど、秩父・たから湯やクラブにあるのと同様にほのぼのとさせてくれる絵 ではある。

さらに、浴槽後方ペンキ絵下に熱帯魚を描いたモザイクタイル絵、男女境には燈台の傍らに茜 色の海原が広がる夕景のモザイクタイル絵がある。これらも悪くない、なかなか優れた脇役だ。

静寂な中で、深浅2槽の清澄なお湯と、静かに浴室を流れていく風を楽しむ。客は小生ひとり。 ゆったりとした中に1日の疲れなどの諸々が溶けていく。。。

上がりは、森永牛乳110円。膝高の小さな冷蔵庫が雑然とした床に埋もれるようにあって、「よ く冷えています」とある中、佃煮なんかとともに数本の牛乳が入っている。

加須にはピークに6軒の銭湯があったという。久喜、白岡、騎西を含めた加須保健所管内では 14、15軒。今、残っているのは同湯のみ。ひとり言のように、ご主人は「時代に合わなくなっ たからなぁ〜」と話されていた。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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