差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2011年11月9日水曜日 22:16
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 鶴の湯(台東区東上野)

ナカムラです。

今日(10/21)は、「鶴の湯(台東区東上野)」に行ってきました。 上野駅(東北本線)から、0.7キロ、7分くらいです。

上野駅近くのビルの2階に入る銭湯。同湯の前は何度も通っているけど、伝統的なビル銭湯を優先 的に回っているので、昭和52年築という同湯に入ったことはなかった。

しかし、今月に発行された「1010(114号)」に同湯が紹介され、ビル銭湯ながら改築前の木造 銭湯の材料を大切に引き継いだという内部の写真が公開されていた。

これはタダモノではないなと感じた。同湯は戦災に遭わなかった非焼失地域にある。改築前の建物 は昭和10年築の建物だったらしい。番台が昭和3年のものだとういう経緯が気になるものの、昭和 3年の番台を筆頭に一見して上質な材料で、内部はかつての伝統的木造銭湯の雰囲気を保っている。

ビルの2階には中央の踊り場のない階段をまっすぐに昇っていく。2階にあるとはいえ、正面中央 にエントランスを置くということに拘ったのだろう。昇れば黒瓦の庇があって紺地に「ゆ」と染め 抜かれた暖簾が下がる。腰高までタイル張りで、はめ殺しの窓は木枠にガラスという、古風な銭湯 の面構えがそこにある。

暖簾を潜ってもやはりビル銭湯というよりは伝統的木造銭湯。左右におしどり錠の下足箱。番台裏 の造作や脱衣所に通じるガラス戸などに囲まれていると、これがビル銭湯とは思えない。

脱衣所に入れば3間四方の広さの脱衣所。木組みのどっしりとした番台。上部に□□□□を組み合 わせた意匠が入っているのが珍しい。女将さんが和服姿というのも極めて希な風景となった。

天井高さは2間ほど。伝統的木造銭湯の高さのある空間には及びもつかないけど、まぁ必要にして 十分な高さ。古いビルなので太い柱があるけど、質のいい木材が貼ってある。

ロッカーは、Oshidoriとあるアルミ板鍵を垂直に差し込んで捻る珍しいタイプ。アナログ体重計は Moriyaのもので表示板が膝の高さに来る120キロ計。飲料の冷蔵庫の他にアイスクリームのケース があって品揃えが30円の駄菓子価格のものから250円のハーゲンダッツまでと幅広い。「鶴の湯」 と書かれた徳利を抱えた可愛いらしい河童たちを描いた萩原光観の水彩画も面白い。

庭はないものの、ベランダ部分に玉砂利が敷かれ飛び石を伝ってトイレに行く構造になっている。 竹囲いがあって景色はないが、石灯籠なども置かれちょっとした庭の風情になっている。

一見して浴室も素晴らしい。広さは幅3間、奥行4間ほど。脱衣所との境も湯気が当たるのに木の 内装になっている。天井高さは2間ながら木製の桟を走らせたような天井。女将は、木ではなくア ルミではなかったと話していたけど、コンクリの浴室にさり気なく「和」を持ち込んでいる。

使われているのは木の湯桶のみ。俵積みではなく、3枚の花弁の様に並べたものを60度ずらしなが ら積み上げている。使い終わった桶をこのように積むのは難しいけど、ご常連は使い終えた湯桶を 元通りに、この美しい積み方を崩したりしない。

島カランは、三角鏡が付いたものが1列で、カラン数はセンターから6・6・6・5。床のタイルは3 センチ角ながら今様の足触りのいいベージュ系のもの。しかし、カラン周りは昔ながらの佇まいが 濃厚だ。要所要所に面取りの白タイルを使い、洗い湯を流す溝も白い陶製U字型のものが使われて いる。ビューティフル!

浴槽は奥壁に沿って深浅2槽。底などは剥がれも目立つものの、使われているタイルは高級そうな もの。浅槽は2穴ジェット×2で43度くらい。深槽はバイブラで43.5度くらい。下町の銭湯なの で案外に熱め。ビル銭湯なのに四角い煙突ではなく丸い煙突だけど、現在は井戸水をガスで沸かし ている。

ビジュアルは奥壁から外壁の上部に二羽の鶴が飛翔する切り絵調のモザイクタイル絵。ひとつひと つのピースがかなり大きく、金色に茜空という背景が素晴らしい。また、フルに外壁側に絵が延び ているというのもペンキ絵を含めても初めての遭遇だ。さらに男女境には”笊”の模様をデザイン 化したタイルが使われている。番台裏で時折見るけど、広い男女境で見るのは初めて。

雨降りの金曜日、19:45から20:30に滞在。客は3、4人ほど。ビル銭と侮ってはいけない。水準を 大きく上回る優れた銭湯だった。

出る時に合羽を着た父子とすれ違う。幼い子供が踊り場のない長い階段を昇るのに難儀している。 恐らく、この階段に恐怖を覚える高齢者も多いと思う。そこが本当のレトロ銭湯との違いかも知れ ない。

上がりの一杯は同湯の近くのイタリアンでビールを頂く。まぁまぁな金曜日の夕食だったかな。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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