差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年1月17日火曜日 22:45
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 鶴の湯(北九州市若松区白山)

ナカムラです。

今日(12/17)は、「鶴の湯(北九州市若松区白山)」に行ってきました。 若松駅(筑豊本線)から、0.8キロ、8分くらいです。

朝、羽田から北九州空港に行く。先ずは戸畑の旧築地町の赤線跡。そして、若戸渡船で洞海湾対岸の若松に渡り、旧連歌町の遊廓跡を巡って、程近い近い鶴の湯に向かう。

戸畑は明治の頃からの製鉄の町。駅から渡船に向かう一帯はかつて築地町といった埋め立て地で赤 線地帯だった。減ったとはいえ、今もアパートなどに転用された派手なタイルで装飾された旧妓楼 だった建物がいくつか確認できる。

渡船で3分ほどで対岸の若松。筑豊の石炭の積み出し港として繁栄した土地だ。船を下りると、旧 三菱合資会社の若松支店だった建物(上野海運ビル/大正2年)や旧古河鉱業のビル(大正8年)等々。 ここが栄えていたことが分る建物が並んでいる。上野海運ビルに入ることが出来た。ボロな外観か らは想像が付かないステンドグラス天井の吹き抜けを持つ凄い建物だった。。。

中将湯、今泉湯、新地や明治町の赤線跡を眺め、さらに、かつて連歌町遊廓のあった辺りを散策。 連歌町遊廓は”連歌の塔”が立っているくらいで、今は妓楼が立ち並んでいた通り自体も消失している。しかし、遊廓には付き物の検梅病院だった古い建物(旧県立連歌町病院)が残る。入ってい た労組協議会が春に解散。周囲の建物が取り壊されて更地になっている。この建物も取壊しが近いという雰囲気だった。そして、遊廓と関係があるのか、付近の建物は建て替えられているけど、そっちこっちに古い煉瓦塀が残っている。

旧連歌町を抜け、通称”土井町”と呼ばれる奥に私娼窟が広がる通りを進む。ここは、現役の色町。 かなりの寒さの中、バラックの長屋に通じる所で老齢のポン引きが遊客を待っている。ディープ過 ぎる光景だ。。。

さて、鶴の湯。5年前に訪れた時は、定休の日曜で入ることが叶わなかった。奥に油井型の煙突が 見える切妻で板張りという簡素なファッサード。入口は洋風の古い木製のドアで、建物の左右両端 と思えるほどに男・女湯の入口の間隔が開いている珍しい構造。番台の裏にあたる部分に廃材がうず高く積まれ、近づかないと入口が見えないくらいだ。

付近一帯は蓮根畑の池が広がっていたという。そんな昔、100年以上も前、ぽつんとこの建物が建 てられた。最盛期には若松に40軒の銭湯があったけど、今は同湯を含めて4軒だけが残る。

5年振りの再会。相変わらず第一級の郷愁銭湯だ・・・。あの時はもう入ることはないだろうと思 っていた。定休日が日曜日と水曜日の週2日になったものの、辛うじて湯を沸かしている。

ドアを開けると狭いコンクリのたたき。下足箱はなく番台の横に古い靴棚があるだけ。銭湯料金は、” 高いのよ”と言った後に440円と教えてくれる。地方とはいえ、ここは福岡県の政令都市だ。

脱衣所の広さは幅2間、奥行はたたきを入れて3間くらい。古い天井扇が下がる押縁の天井で、ラ イトブルーのペンキ塗り。壁は木目プリントの新建材に替わっている。

番台は木組みのものながら、手摺りと踊り場付きの4段ほどの階段が増設されている。塗装もされ ていない素人くさい仕事だけど、番台への階段としては大がかりなものだ。膝が悪い女将さんのた めに昨年付けられたものらしい。

ロッカーは、鍵の無いものが入口の衝立を兼ねるように数個だけ。下段には現役で使われている丸 籠が入っている。

その他、Kamachyoのアナログ体重計、旧型マッサージ機などがある。

浴室は、幅2間半、奥行4間ほど。天井は、四角錘型のピンクのプラ板張りで、中央に湯気抜きが 開いている。床のタイルは濃淡の小豆色の組み合わせの暖かく落ち着いた色合いだ。

浴槽は小判型のセンター浴槽で、カランはその両側、男女境に5機、外壁側に6機ある。

男女境は、カラン台を超える低い位置から、いきなりガラスブロックになっている。このあたりは もう一軒の今泉湯と同じだ。女湯側でカランを使うと、はっきりと裸身のシルエットが映るに違い ない。地方ゆえの大らかな造りだ。

主浴槽は、縁が濃い小豆色の小タイル、側面が淡い小豆色の小タイル。今日は、週一回の白濁の薬 湯が満たされている。店先に積まれている廃材を焚いて水道水を沸かしたものだ。湯温は43度くらい。かじかんだ身体にはかなり熱く感じる温度。奥壁と男女境とのコーナーにやはり白濁の薬湯槽 がある。こちらは40度くらいのかなりぬるい湯だ。同湯は濾過装置を有していない。ジェットなど がない昔からの姿で営業している。客が少ないというのが最大の理由ではあるけど、そのためにお 湯は清潔だ。

ビジュアルはない。奥壁は淡いピンク色の縦長の小タイルを基調としたもの。その上は淡いモスグ リーンのタイルが天井まで精緻に張られている。

同湯のタイルは、15年前に亡くなった左官業のご主人が手がけたもの。施工から20年以上ビクと もしないけど、女将が補修した所は2年くらいでポロっと剥がれると笑っている。「天国に電話を掛 けて呼びたいよ。そして、仕事終わったらさっさと帰ってねと・・・。」

番台の改造が必要なくらい苦労しているのに、毒舌を交えながら女将はあくまで陽気。これほどに 口が達者な女将さんは久し振り。先代の女将は92歳まで番台を務めたという。今の女将さんもそうあってほしい。

土曜日の夕方、16:30から17:40に滞在。相客は3人。

いろんな意味で限界を感じる銭湯だけど、5年前に思った通り心の襞に刺さる第一級の郷愁銭湯だ った。

帰路は、またポン引きの前を通り、バラックの中に不自然にある、おそらく”店舗”だろう建物を ちらっと眺める。その後、夜の若戸渡船で戸畑駅経由で小倉駅まで出て、1週間の旅行の前途を祝して一杯やった。

若戸渡船は22:00台まで運行している。夜の渡船に乗るのは初めて。渡船の船着き場から戸畑駅ま では300メートルほどあるけど、筑豊本線の起点の若松駅から、非電化で本数も少ない筑豊本線と 折尾駅経由の鹿児島本線で洞海湾を回っていくよりも早く小倉や門司港に戻ることができる。

《前回訪問:2007.01.28.》

*************************************************
ナカムラ (Masayuki Nakamura)
メイン:masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp  
URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ (風呂屋の煙突)
*************************************************



上野海運ビル(以下計4点)











”土井町”界隈









旧連歌町界隈


旧福岡県立連歌町病院