差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2004年6月13日日曜日 14:24
宛先: 銭湯ML
件名: 月の湯(文京区目白台)

ナカムラです。

今日(6/12)は、「月の湯(文京区目白台)」に行ってきました。
護国寺駅(東京地下鉄道)から0.6キロ、10分程度です。

目白通りは、高校時代(山岳部)にランニングしていた通り。
大学時代にも、友達のアパートがあり、目白の大学から何度も歩いたりした。
表通りには、見覚えと懐かしさがある。
その時分は、少し入った所にこんな伝統的銭湯があるなんて全く知らなかった。

旧高田老松町は戦災で焼けなかった町らしい。同湯の建物は昭和9年築。
東京を代表するレトロ銭湯の一つ。んー、立派だ・・・。

入口は、黒瓦を載せた唐破風が優美なカーブを描いている。
懸魚等はなく、暖簾の上は漆喰が塗られたシンプルなもの。
そういえば、同時期の「長生館湯(渋谷区千駄ヶ谷)、昭和5年」も同じような唐破風の入口だった・・・。

その唐破風の上に、まさに寺社建築のような立派な千鳥破風が載っている。
塀があり、塀の上にも黒瓦が載せられている。かなりの風格。

入口の周りには、白熱灯の暖かい灯り、緑色の公衆電話、紫陽花の鉢、茶色の暖簾となかなか小粋なアレンジとなっている。
墨書の貼り紙。6月15日は臨時休業。
暑いのに申し訳ないとの文面。店主山田泰江氏の人柄が表れている。

暖簾をくぐると小さなエントランスホール。
正面に傘を突き刺す式の傘入れ。真中の一部スペースに花と人形が置かれている。

下足箱の錠は松竹。番台への戸は、取っ手が付いたドア式と珍しいタイプ。
番台は茶色の四角いもの。高さはかなり低い。
90ウン歳のおばあちゃんが番台に座っている。声が大きく、笑顔がなかなか決まっている。

脱衣所の広さは幅2間半、奥行3間程と中型。
しかし、外壁側のガラス戸が開け放たれて縁側、その外には、正面にまで周るL字型の大きく深い池(但し水はない)、石燈籠があるり、面積的な広さ以上に開放感がある。
天井は折上げ格天井(6×10)。格子は一般的な格子より少し小さい。
格子と天板ともに古色蒼然としている。そこから、昭和中期的な蛍光灯の照明器が真中に下がっている。
建具は木製で壁は煤けているけど漆喰壁になっている。

オール木製のロッカーが入口側の壁に20個ほど設えられてるけど、使われていない感じ。
脱衣籠が3本に分けて積まれている。これほどの脱衣籠のある銭湯は初めてかも知れない。
それに、東京の真中の銭湯でロッカーが使用されていないのは珍しいと思う。

その他、Hokutowのアナログ体重計、流し、冷蔵庫などがある。
男女境の鏡の上には、広告会社「敬心社」のアクリル広告板とともに、表通りの中華屋や、眼鏡店、和菓子屋のアクリル広告板があり雰囲気を醸し出している。
但し、電話番号が3桁のままだった。

冷蔵庫の上にはノートと「サクラビール(帝国麦酒会社)」の栓抜き。
この会社は、第二次世界大戦中に大日本麦酒会社に吸収合併され、戦後はサッポロビールとアサヒビールに分割された。
いかにも戦前の栓抜きといった堅牢なもので、ずっしりと重かった。

浴室への入口も取っ手が付いたドア式。ここの戸がこの方式なのは初めての遭遇かも知れない。
広さは幅2間半、奥行3間半。天井は2段型。

鏡のみの島カランで1列。カラン数はセンターから4・3・3・5。カランは日の丸扇の旧型。
センターには、何故かカランより1個多くシャワーが付いている。(立ちシャワーというわけではなさそう。)
外壁側のカランのうち4つは、外壁側を50センチほど張り出した構造の壁に付いている。
この張り出し構造は庭が見通せてなかなかいい。

島カランの下には洗い湯を流す溝がない。両サイドには溝があるけど、溝の底に小さなタイルが張られている珍しい構造。
床のタイルは、白い6角形の白いタイルが平滑に張られている。
道具を置く台の周りは竹割タイル。
浴室には、なかなかレトロな趣が残っている。

複数の常連さんは、椅子を使わず床にじかに座っている。珍しい光景に映った。
そう、浴室にはなかったけど、トイレには緑の鳴門巻文様のマジョリカタイルがあった。

風呂は深浅2槽。境には親子蛙の置物がある。
深槽は穏やかなバイブラ。温度は43度くらい。
浅槽はバイブラと1穴ジェットが2つ。箱型にくぼんだ焚き出し口がある。温度は42度くらい。
恐らく井戸水を沸かしている。穏やかで柔らかい湯。

ビジュアルは、風呂の上にタイル絵。鈴栄堂の池に鯉の絵柄。
章仙画と思うけど、銘の部分が色褪せて読めない(初めから書いていない?)。
奥壁には平成14年10月18日の日付がある早川師の西伊豆。
富士山があって、前景の海岸では波しぶきが跳ね上っている。

土曜日の夕方、18:15〜19:00の間滞在。相客は延べ10人程度。
浴場広告を出していた、表通りの小さな中華屋「北京料理 栄和楼」は、それ以上の客が入って満員だった。

主人が病気で亡くなられて、女将と向いの和敬塾の寮生の清掃で切り盛りされていると聞く。
カランの湯には、初め、錆びが混じっていたりと設備は老朽化している。
設備的にも運営的にも厳しい銭湯と感じた。
いい銭湯だった。頑張ってほしいと思う。