差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2008年11月5日水曜日 22:23
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 柳の湯(長野県上田市中央町)

ナカムラです。

今日(11/2)は、「柳の湯(長野県上田市中央町)」に行ってきました。 上田駅(しなの鉄道線)から、1.1キロ、15分くらいです。

上田には3軒の銭湯が残っている。竹の湯は16:00開店で2時間しか営業していない。柳の湯 は、旧柳町という商家が立ち並ぶエリアにあって旧北國街道沿いのレトロな銭湯。付近は独自 に景観保護を行ってきて、小規模ながらなかなかの風情がある。もう1軒は、宮桜の湯(未見)。

銭湯が店を開けるまでは、先ずはいつものように遊廓跡の探索・・・。 長野県は、明治に入って最初3ヵ所、後に11ヵ所まで貸座敷免許地(遊廓)が指定された。上 田は、長野の鶴賀、松本の横田と並んで最初の3か所の1つ。しかし、案外に情報が取れず、 「上田常磐城(ときわぎ)遊廓」という遊廓名称と上田交通・真田傍陽線(廃止)の上田花園 駅が最寄り駅だったことまでしか分からなかった。

やや余裕のあるスケジュールなので、昨日、小諸・鶴巻の湯のご常連に伺った赤線または青線 エリアだったと思しき旧木町、旧袋町と回ってみる。

かつて養蚕で栄えた町だけあって、質・量ともに充実している。ダンスホールは駐車場だった けど、その隣のミルクホールだった建物は現存していた。赤線跡の建物も元々はさる養蚕企業 の寮を転用したものだったようだ。大正2年築という建物群が結構リアルに残っている。ただ、 空き家が多い。地方都市が衰退しているので利用価値のない不動産として捨て置かれている。 上田だけの話ではない。多くの建物が消失のカウントダウンに入っている。

柳町では、武田味噌醸造で味噌を、岡崎酒造で清酒・亀齢(きれい)を購入。そして、有名店 「大にし」で手打ち蕎麦3種を食す。昨日、鶴巻の湯近くの床屋の爺から柿を5つ頂いている。 だんだんと荷物が重くなってきたが、常磐城遊廓への本通りにあって、遊廓への客が矢出沢川 を渡った「浮世橋」へ向かう。

この橋の袂に3年前まで「浮世の湯」という艶っぽい屋号の銭湯があった。隣の床屋の親父に よれば、柳の湯よりももっと鄙びた感じの銭湯だったという。常磐城遊廓の場所は聞き取った ものの、山に向かっての上り坂。伺ったランドマークも地図にすら載っていない「神社《小さ な金毘羅宮だった》」というもの。少々難儀した。しかし、妓楼建築という点では全く期待して いなかったものの、かなりの補修を受け往時の面影は薄いものの大楼が1棟だけ残っていた。 夕ぐれの風景の中で常磐城遊廓の妓楼を撮影することができた。苦労が報われた感じがした。

予定では、16:00から2時間営業の竹の湯に入って、次に主目的の柳の湯に入ろうと行程を イメージしていた。しかし、既に常磐城遊廓で16:45の日没時刻と相成った。ハーフティ ンバー調の板張りにペンキ塗り。そのペパーミントグリーンの竹の湯には惹かれるものがあっ たけど、短時間のハシゴではどちらもが中途半端になって、これら趣き深い銭湯を味わうこと ができない気がした。竹の湯は今度来る時まで生き延びてくれているだろうか。そう思いなが ら柳の湯に向かう。

「柳の湯」。柳町にあるということからの屋号だろう。そして、矢出沢川の支流際という趣き深 いロケーションだ。付近は上田では最も古い町並みが残っているエリア。そんな場所で昭和初 期の建物のまま営業を続けている。入口にはモルタル直方体のエントランススペース。屋号が 「湯乃柳」と右書きでレリーフされていることが長い歴史を語りかけてくる。

暖簾をくぐれば左右にガラス戸。開ければコンクリのタタキに一部スノコを敷いている。縦置 きの下足箱の錠はオール木製のものだ。

女将さんに380円の風呂銭を渡す。脱衣所の広さは幅3間弱。奥行は1間弱のコンクリのタ タキの部分を入れて3間ほど。壁は昭和中期のグレー木目の新建材。天井は板張りの直接天井 に白いペンキが塗られている。番台も白い新建材。創造していたよりも案外とレトロな雰囲気 ではないかな。唯一、男女境の古い姿見とそれを固定している辺りが、オリジナルな状態で残 っている。

張り替えられた床にはゴザが敷かれ、真ん中に金属製の火鉢がある。銅器で名高い高岡の銭湯 で見たのと同じたぐいの立派な物だ。主力は丸い脱衣籠だけど、外壁側には松竹板鍵のロッカ ーもある。この松竹錠は錠の下に「松竹錠P.T.」と小さくペイントされたもので初めて遭遇す るタイプのものだった。その他、朝日衡機のアナログ体重計や旧型マッサージ機、ぶら下がり 健康機などがある。

浴室は、幅3間弱。奥行は3間半程度。天井は逆V字型で真ん中に四角の湯気抜きがあるもの。 島カランはプレーンなものが1列で、カラン数はセンターから5・3・3・7。さらに両サイ ドにハンドシャワーが1機ずつある。

浴槽は奥壁に接するかたちで深浅2槽。それぞれに塩ビパイプの粗野な焚出し口があってドボ ドボと勢いよく湯が注がれている。湯温度はやや高めで双方とも43.5度程度。バスクリン 的な入浴剤が投じられている。

タイル遣いは、脱衣所と同様に昭和中期的なもの。床はブルーを基調としたもので、洗い湯を 流す溝に小石型タイルが敷かれているのが珍しい。ビジュアルはなく、男女境のシャワーの上 というやや低い位置から横一面にガラスブロックが積んである。浴室全体が、明るく広く見え る効果があるけど、傍らに立てば身体の線までが向こう側に映る。都会では考えれない開放的 なものだ。

日曜日の17:25から18:05に滞在。相客は10人ほど。客は、途切れなく脱衣場あるいは浴 室にいる。現役性の高い銭湯だ。昨日、小諸・弦巻の湯で、この柳の湯のご常連に遭遇し、ひ ょっとして今日も顔を合わせないかなと注意していたけど、それは無かった。

飲料の販売はないようだった。帰路の上田駅からの新幹線の時刻は19:41。本当は柳町の飲み 屋にでも入りたかったけど、時間が読みにくいので、木町の遊廓跡、竹の湯を通り「菜飯」と いう駅近くの飲み屋に入った。ベトナム人が料理人の、経験したことのないベトナム料理がい くつもある居酒屋だった。

上田駅から東京駅まで1時間ちょっと。碓井峠を越えるために峠の釜めしで有名な横川駅で補 助機関車を連結していた時代が偲ばれる。手元にある1974年4月号の時刻表では、上野駅から 信越本線だった上田駅までは2時間30分ほどかかっていた。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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