差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2017年1月12日木曜日 21:56
宛先: 銭湯ML (sento-freak@freeml.com)
件名: 荒戸湯(福岡市中央区荒戸町)

ナカムラです。

今日(3/2)は、「荒戸湯(福岡市中央区荒戸町)」に行ってきました。唐人町駅(市営地下鉄空港線)から、0.4キロ、5分くらいです。

大濠公園駅からアクセスする。地下鉄の便がいい落ち着いた感じの町で、高規格のマンションが林立し洒落た飲食店も多い。先ず「あべコーヒー」というコーヒー豆屋で引っかかり、押し出しの強い主人からチョコレートに合うという独特の淹れ方の珈琲豆を購入する。丁度コーヒーが飲みたかったものの、試飲としてマグカップ3杯もの飲み切れない程のコーヒーが出された。強烈な自信と面白味のある親父はいつまでも忘れられない印象がある。

途中の「港町」という交差点で気が付いたけど、町の東側は直ぐ博多湾に接している。隣湯の西公園浴場を眺め、黒門飴という米糠とともに袋に入れられた古風な飴を作る飴屋に寄り、唐人町のアーケード街をそぞろ歩く。

さて、荒戸湯。唐人町のアーケードの大濠公園駅側の入口にある。地下鉄に近く公園にも近いという環境の良さから同湯もマンションに囲まれ、まさにその谷間にある。ここに昭和元年頃の築という銭湯が残っているのは、まさに奇跡的。屋号は荒戸村から続く荒戸という町名に由来するようだ。

採光の格子窓と小さな入口だけがある平面的なファッサード。隣の母屋は純和風の古い日本家屋が連なっている。

入口には男・女湯のドアがハの字に置かれている。開けて入れば狭いたたきを挟んで番台とKing錠の下足箱。相方が女将さんに2人分の風呂銭880円を手渡す。

女将さんは中学を卒業して下宿として入って以来、幾星霜。今は一人で同湯を守り続けている。小生と暫く話した後、相客もないので眠りに入った。上がった時、余りに深く静かな眠りなので不安になったほど。

脱衣所の広さは、幅2間、たたきの部分を合わせて奥行3間、天井高が1間2/3ほどの木板張りの天井。

ロッカーは、外壁側にKing錠のもの。板の間に並べる脱衣籠も現役で使われている。その他、マッサージ機、下足箱に載せられた小さなテレビ、小窓からスケールを眺める方式のteraokaのアナログ体重計等々がある。

ロッカーの上には、高倉健などの全盛期の映画ポスター、昭和40年頃の大相撲の番付表などの貼り物が並ぶ。

近くに高砂部屋の九州場所の拠点があって、かつては高見山や小錦なども同湯を訪れたという。十両以上の力士不在で幟を立てられなかったこともあって、高砂部屋自体は残っているものの勢いが衰えて寂しくなったという。

浴室の広さは、幅2間、奥行3間、天井は四角錘型で中央に湯気抜きのあるタイプでプラ板張り。脱衣所ほどの小ぢんまりさはない。

カラン数はセンターに5、外壁側に4。床のタイルは、正方形の小豆色の小タイルを淡いブルーの台形タイルが四方を囲むデザインのもの。男女境は硝子張りで、それが明るい感じを演出している。男女境には黄色のひよこが11匹並べられている。

浴槽は奥壁に沿って深浅2浴槽。昔は浅井戸からの水を沸かしていたけど、傍らの川の暗渠化により水脈に滞りが生じたのか使用に耐えなくなった。

今は水道水に変わったけど、大きな独特のやや深い浴槽に、獅子口から供される清澄で軟らかなお湯が満々と湛えられている。

ビジュアルは、何と中島さんのペンキ絵。富士川中流域から富士山を仰ぎ見る絵柄。女湯はお得意の赤富士らしい。2013.10.8.の日付とともに”ナカジマ”と記されている。福岡に出張し、同湯、西公園浴場、梅の湯の3軒にペンキ絵を描いたという。

ペンキ絵の下にアートエスという広告会社が手がけたアクリルの広告看板も何枚か並んでいる。また、脱衣所と同じくラミネートコートされた古い映画のポスターが外壁側にずらりと並ぶ。勝新太郎、鶴田浩二、高倉健などの若い頃の姿を見ることが出来る。

上がりは、古い映画ポスターを眺めながら瓶牛乳を頂いた。滞在中はほとんど荒戸湯を独り占めだった。

水曜日の18:20から19:10に滞在。相客は入れ替わりで2人ほど。仕事帰りに大濠公園を走るランナーを支援する銭湯でもある。そのランナーが深く静かに寝入っていた女将を呼び覚ました。”今日は遅かったね”なんて会話が交わされる静かな空間は居心地がいい。

上がりの一杯は荒戸湯の鏡に広告を出していた「あら津」という焼き鳥屋に向かう。正月三が日以外は無休とあったものの灯りが点いていなかった。人気店らしいけど休みが増えたのかな。

西鉄時代のライオンズの本拠地だった平和台球場(解体)があったこの辺りは、プロ野球に血が騒ぐ体質が今も引き継がれているのかも知れない。とある居酒屋ユースの中華屋ではオープン戦を一同食い入るようにテレビ観戦していた。あまりに昭和な懐かしい光景で嬉しくなった。

その輪に入るには気後れがあって、結局は天神の焼き鳥屋に入る。焼き場、ホール、勘定場ともにアジア多国籍チームだった。ドメな自分もグローバル化を迫られているけど、博多の焼き鳥屋の方が遙かに地に足が着いたかたちでグローバル化が進んでいる。必死の彼らの姿勢に学ばなければと、つくづく感心させられた。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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                       手前の母屋は連子格子の伝統的な日本家屋




                               黒門飴の板谷商店




                                     板谷商店




                   唐人町商店街




        恐らく平和台球場があった頃からあるだろう中華屋




                  人生は後ろ姿に滲み出る

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