富士見湯(荒川区荒川) 2008.06.09

都電荒川線・荒川二丁目電停近くの「富士見湯」が廃業するという。

急な知らせ。行くことができないと思っていたけど、なんとか最終日の夕方に行くことができた。4年振りくらいの再訪だと思う。

赤坂見附では青空だったけど、17:30頃、町屋駅に着いたら、雷鳴の中、雨足が強かった。

涙雨かな。そう思いながら富士見湯へ行く。

同湯の玄関に廃業の告知が出されたのはほんの1週間ほど前のことらしい。同じく写真を撮っている方がいらっしゃる。やはり、同湯には来ずにはおれない魅力があるだろう。なんか分かる気がする。

そして、小生が同湯後方の路地で写真を撮っていると、通行人は不審な眼で見て通り過ぎて行く。そうだろうと思う。でも、立派なスーツを着こなした一人の働き盛りがほほ笑んで前を通り釜場のインターホンを押した。

自分のファーストネームを告げ、「最後のお風呂に入りに来ました。」と告げている。恐らく、同湯のお孫さんなのだろう。律儀な方。きっと、同湯には尽きない思い出があるのだと思う。



同湯は、脱衣所建物も後方の釜場の建物も、粗末な下見板張りの稀に見るボロな出で立ちだ。脱衣所はどことなく、釜場は完全に傾いている。

荒川区で一番のボロ銭湯にして、一番客が少ない銭湯。お茶目な87歳のお婆さんが教えてくれた。
ご主人は86歳。最近、罐を入れ替え、煙突を塗りなおしたばかりなのに、何があったのだろうか・・・。それは聞けなかった。

夕暮れを待って写真を撮り、19:00から20:00に滞在。相客は20人くらいか。いつもこれ位だったら良かった・・・。

レトロな照明器を撮らせていただく。 明日から解体工事が始まるという。廃業前日までの営業。律儀だ。

同湯では飲料の販売はないと思っていたけど、子供が女湯に走って牛乳を持ってきた。
こういう場合、男湯には飲み物のメニューくらい張ってあるものだけど、そんなことを知らない客は来ないのだろう。

石鹸を持参していなかたので買おうとしたら、古いセルロイド製石鹸箱に入ったのを貸してくれた。
販売用の石鹸は仕入れていないようだ。
同じく、石鹸箱を貸してくれた日本橋蛎殻町の木村湯も去年廃業してしまった。戦前からのレトロ銭湯だった。

相変わらず、物凄い勢いで銭湯の廃業が進んでいる。
来月から風呂銭が430円から450円に上がる。客離れが進まなければいいが・・・。

夕飯は向いの「蘇生庵」で一杯。すでに、カンバンの20:00を回っていて、そばを茹でるお湯を落としたという。

無理を聞いてもらい、燗酒2合を流し込む。ツマミも取らず酒との関係が潔いという野坂昭如を真似てみた。
馬鹿みたいという言葉が聞こえてきそうだけど、硝子徳利の初めて飲む「金婚」という酒は美味しかった。


《前回訪問:2004.04.23.》


お孫さんなのか、最後のお風呂に入りにやってきていた。



























同湯向いの蕎麦処「蘇生庵」。
豊島屋本店の「金婚」。ひと口飲んで、旨いと感じた。
江戸の酒蔵。なかなかの名門の酒のようだ。