姫の湯（深谷市西島）

差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2010年6月5日土曜日 7:53
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 姫の湯（深谷市西島）

ナカムラです。

今日（5/30）は、「姫の湯（深谷市西島）」に行ってきました。深谷駅（JR高崎線）から、0.4キロ、5分くらいです。

昨日は、連れの友人の個展に赴くため秩父の小鹿野町へ。しかし、小鹿野町の路地裏撮影に時間を費やし過ぎて、友人ご推薦の最も秩父七湯で侘び寂び度の高い千鹿谷鉱泉に入りそこねてしまった。風呂は寄居町の明治初期に創業した山崎屋旅館で頂いた。大正末か昭和初期頃の建物を使っている商人宿。風呂も古風なものだった。

今朝は、寄居の遊廓跡や、ダム建設で滅びた景勝地・玉淀を散策する。和風の旧玉淀観光ホテル（玉淀館）が朽ちかけていた。写真集「棄景Ⅱ（丸田祥三）」にあった昭和初期の廃屋洋館が並ぶ別荘地も撮影の目的だったけど、何年か前の不審火で、河畔の別荘地へ降りる道が閉鎖されていた。残念。。。

暑さで有名な熊谷に移り、桜湯、朝日湯、見晴湯を見て回り、見晴湯のある伊勢町の遊廓跡を散策。「赤線跡を歩く（木村聡）」の刊行から12年。遊廓の転業旅館街は、姿を止めないくらいに風化が進んでいた。そして、旧妓楼と思われる一軒がまさに解体中だった。残るは2軒といったところか。

熊谷から深谷に北上。深谷に2軒ある姫の湯と仲屋湯を眺め、姫の湯に入ることにした。

深谷駅はスケールダウンした辰野金吾設計の東京駅のレプリカ。JRが建設費を負担したのだろうか。少し悪趣味に感じる。姫の湯はそんな駅から中仙道に向かう「駅前通り」に面している。付近には300年続き4年前に廃業した「七ツ梅」の造り酒屋の豪壮な建物や東京駅の煉瓦を生産していた煉瓦処につき、洋風の建物だけでなく煉瓦造の建物も散見される。見所の多い一角にある。

広い敷地の奥に、コンクリ煙突、モルタルの脱衣所棟とエントランス。創業は100年を超える。もらい火で焼失したため、現在の建物は昭和36年あるいは37年築。大きな掛かり松が天辺まで蔦に絡み尽くされている他、塀や脱衣所棟も蔦や木々に埋もれている。モルタルの雁吹きが場末の安アパートのように干からびてている。ややオドロオドロしい感じがしないでもない。

エントランス付近は石敷きになっている。暖簾の奥、番台の背にあたる部分には山と川の新しいタイプの絵付けタイル絵。ITGと記されていた。左右には旧型さくら錠の下足箱。エントランスの奥行きがないため下足箱の個数も多くはない。

番台への扉を開ければ、木組みのどっしりとした番台と3間四方の脱衣所。高い折上げ格天井からは長いシャフトの天井扇が下がっている。折上げ部分は壁とともにベニヤ板に白いペンキ塗り。天板も干からびている。材料はさほどのものではないようだ。

地方銭湯で番台が使われていないことは多い。しかし、同湯では改築以降、番台は使ってこなかったという。3年ほど前に映画「夕凪の街桜の国（佐々部清）」の撮影で同湯が使われた時に、女将は初めて番台に上がり、その映画に出た。佐々部監督といえば2003年の「チルソクの夏」では下関・紅葉湯を使っている。意識して銭湯を映画の場面に取り込んでいるようだ。

ロッカーは外壁側にのみSakuraⅡ錠の横長のオール木製ロッカーがある。下2段ほどは脱衣を入れた丸籠を収める棚になっている。脱衣籠は30数個が3つに分けられ、そこそこの高さに積み上げられている。昔の銭湯はこうだったなという風景が残っている。

一番庭側のロッカーを開けて驚いた。非水洗トイレの臭気が流れ出てきた。最初は何が起きたか理解できなかった。このロッカーの奥には板1枚隔ててトイレがある。地方の家ではよく遭遇する「郷臭」ではあるけど、ロッカー内に臭気が充満していたのには驚いた。構わず、このロッカーを使ってみる。

島ロッカーのない広い空間。背景として緑豊富な庭池が映える。コンクリ造の池がほとんど全てという庭だけど、例の蔦が壁の内側までも支配し、風情はないけど、緑が多いのは悪くない。そして、この緑の風景は、辻堂・不動湯がそうだったように、浴室からも見通せて1つのビジュアルを構成している。

浴室は幅3間、奥行4間ほど。天井は緩やかな弧を描く板張りのカマボコ型。そこに4本の湯気抜きがあって円盤状の蓋が被せてある。この郷愁銭湯には、少し相応しくない「ベンチレーター」といった感じのものだ。

床は3センチ角のイニシエの白タイル。島カランはプレーンなものが1つで、カラン数はセンターから5・4・4・4。立ちシャワーすらないレトロな空間がある。

浴槽は奥壁に沿って深浅2槽。まばらに、緩やかに、気泡が立ち上るのみの簡素な浴槽。温度は43度と43.5度くらい。熱さが特徴の北関東系銭湯としては入りやすい温度だ。いい井戸水なのだろう、やや塩素が強い印象を受けたけど、薪焚きの清澄極まりない優れたお湯だった。

ビジュアルは、奥壁に色褪せた「河口湖」とある富士山のペンキ絵。中島さんでも、丸山さんでも、早川さんのものでもない。しかし、明らかにプロの仕事だと思う。さらに、男女境には、海、洋館、カモメ、船という定番のモザイクタイル絵がある。

上がりは瓶牛乳を頂いた。日曜日の15:50から16:40に滞在。最初は一番風呂勢が残っていていたので相客は都合6､7人といったところ。

深谷には最盛期は7､8軒の銭湯があったという。現在は同湯と仲屋湯のみ。仲屋湯も油井型の煙突にモルタルの簡素な佇まいで惹かれる銭湯だった。深谷は快速・アーバンで赤羽から1時間ほど。今回のツアーでは熊谷・朝日湯とともにかなり惹かれものがあった。近々に再訪しなければ。。。

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ナカムラ　（Masayuki Nakamura）
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深谷駅	駅前通り
旧七ツ梅酒造。300年続いて数年前に廃業した。