差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2008年5月13日火曜日 0:04
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池野温泉(岐阜県揖斐郡池田町池野)

ナカムラです。

今日(5/5)は、「池野温泉(岐阜県揖斐郡池田町池野)」に行ってきました。 池野駅(養老鉄道)から、0.7キロ、10分くらいです。

早朝から「旭日園(大垣市藤江町)」、「夜城園(大垣市安八町墨俣)」と旧女性街の痕跡を撮影 するために、雨中、散策した。いずれも2年ぶり。夜城園跡は、空家が多くなった他にあまり 大きな変化はなかったけど、旭日園跡はシンボリックな建物が2軒ほど消失し、新たに区割り されて真新しい住宅に替っていた。

墨俣から大垣に戻るタクシーで、運転手に「夜城園」のことを伺うと、50年以上前に夜城園 で遊んだことがある方だった。

「安○タクシー」の運転手からは、いつも面白い話を伺う。2年前にも同社のタクシーを利用 したけど、その時の運転手は、中学を出て酒も女も初めてだったというその夜から、岐阜・柳 ヶ瀬のアルサロの女給に小遣いをもらいながらの同棲生活。働かないで2〜3年はそんな女た ちを何人も渡り歩いた。「そらぁ、極楽だった・・・」と。しかし、19歳の時に28歳の姉さ ん女給に、こんなことでは駄目だと説教されて自動車の免許を取るお金を渡され、半世紀以上 の彼のドライバー生活が始まった。最初の女の顔は思い出せないけど、今でもこの姉さんの顔 ははっきりと思い出すことができると話してくれた。印象に残る話だった。

今回は夜城園の経験を伺う。料亭の芸妓の花代など一切合切で4000円だったという。今年は赤 線廃止から丁度50年。少なくとも、半世紀前の4000円というお値段。かなりの出費だ。墨俣 に今でも建物が残る旧さくら湯の他、見番付属の銭湯、もう1軒か2軒の銭湯があったことや 料亭の話などを伺った。

そして、最後に「池野」でも遊んだ経験があるという。「池野」は初めて聞く地名だった。

繊維産業の繁栄で名を轟かせた墨俣を本拠地とするタクシー会社だけあって、なかなかの猛者 を擁している。

さて「池野温泉」。 10分前に聞いた「池野」という地。急拠、花街に付随したと思しき色街の痕跡を求めての訪 問。大垣駅からの養老鉄道の本数は1時間に2本ほど。帰路の新幹線の時間を気にしながらの 行き当たりバッタリの訪問だ。 池野は、寂れた田舎町なのに料亭がいくつもある。色街の痕跡は「夜城園」とは比べるべくも なかったけど、微かな痕跡と雰囲気は残っていた。

そして、偶然に銭湯の煙突を見つける。「この街にも銭湯があったのか・・・。」そう思ってい ると、何と黒煙が出ている。行けば、廃業旅館の奥に、梁の使い方からして戦前の建物と思し きレトロな銭湯があった。

今日は、「玉ノ井湯(一宮市木曽川町)」のレトロ銭湯を予定していたけど、位置的には同湯の 方が「秘湯」度が高い。池野の町をじっくり探索して同湯に浸かることに方針を変更する。

脱衣所の広さは幅2間、奥行きはコンクリのタタキを入れて3間ほど。昭和初期の建物だとい う。番台は簡素ながら風呂銭のやりとりをする台の部分は狂いのない上質の板がこの銭湯の風 格を語っている。そして、番台上の裸電球がなんとも心をほっとさせてくれる。本当にいい空 間だ。

料金は岐阜県統一の380円。花街時代は14:00から23:00くらいまでの営業で、口開けに は芸妓たちがお座敷前に入りにきたという。今でもご年配の方々が懐かしそうに話題にすると いう。現在は17:00から21:00までの4時間営業。そして、池田町営の温泉施設「池田温泉」 との間違い電話が多いので、電話帳からも削除されている。

アルミサッシの戸を開けると、幅が狭いコンクリのタタキにスノコというシンプルな構成。下 足箱はなく棚だけ。番台も下部が空間になっている簡素なもの。番台の上に裸電球がぶら下が っている光景とその温かい光はなんとも言えない・・・。女湯とつながる部分にはカーテンす らないのは地方ならではの大らかさだ。

脱衣所の広さは、幅2間、タタキの部分を入れて奥行3間ほど。2階が載っているので、天井 高は一般の住居よりも少し高いという程度の、ペンキ塗りの押し縁天井になっている。床は籐 が敷いてあるけど、その下は古い板の間のようだ。狭い緩衝地帯は、良くある臙脂とベージュ の市松模様。それだけでなく、それに接する板の間の一部が籐に隠れてはいるものの青と白の 市松模様になっている。こんな構造は初めての遭遇。

ロッカーは、外壁側に新建材張りの既成ではない感じで、古くはないロッカー。錠はSSLOCK。 何もない脱衣所だけど大きな水槽が2つあって金魚が泳いでいる。そこだけ浮いている感じで おかしかった。

浴室は幅2間、奥行4間ほど。カランは外壁側に8つ。レトロながらシャワーもある。

浴槽はセンターに長方形の主浴槽と奥に薬湯とデンキの副浴槽がある。湯は最初は温かったが 入っているとどんどんと温度が上がってきた。副浴槽は足を入れるとやけどするような温度で ひっくり返りそうになる。傍らの湯もみ棒で攪拌するが、入れる温度にははらなかった。

周囲のタイルは10センチ角のシンプルな白タイル。廿世紀浴場敷島湯などもそうだったけ ど、緑のカビが浸潤していて独特の模様となっている。最初は不気味に感じたものの、最近は その歴史の証を、味わい深く見ている。

男女境は、タイル部の上は面積の大きなすりガラスを人研ぎの石のようなもので支えている。 名古屋の古い銭湯で稀に見るものだ。

ビジュアルは、4枚組のタイル絵が3つ。いずれも立って見上る高さにある。外壁側の2つは 古い銭湯で遭遇するマジョリカタイルで「鯉の滝昇り(S.N.)」と「富士・海岸・松(S.K aji)」というもの。「S.Kaji」というイニシャルは初めてだ。奥壁は絵付けタイルで花 を含めた風景図のようだけど退色が進み絵柄を判読することができなかった。

上がりはすぐ近くの「ワタナベ酒店」でキリンのラガーを頂く。さっき町で、銭湯と花街時代 のことを伺った方だった。「どうだった」と聞かれるまで気が付かなかった。

同湯には、一昨年に75歳で亡くなるまで、三助(釜焚き)がいた。 経営とともに雇用を引受け、以来、40数年同湯の釜焚きを担ってきた。 最後の最後まで面倒を見たという。今の時代、そういうこともあるのかと、同じひとり者とし て、少し複雑な気持ちで聞いていた。

池野にはもう一軒「伊吹湯」という銭湯があった。 近くに理髪店があって、今も風情ある建物が残っている。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ (風呂屋の煙突)
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勝野医院


旧伊吹湯(昭和49年12月廃業)


池野駅