敷島湯（名古屋市南区道徳新町）

差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2006年5月13日土曜日 22:01
宛先: 銭湯ＭＬ
件名: 敷島湯（名古屋市南区道徳新町）

ナカムラです。

今日（5/4）は、「敷島湯（名古屋市南区道徳新町）」に行ってきました。
道徳駅（名鉄常滑線）から、０．９キロ、１０分くらいです。

この地は、電力王・松永安左エ門、福沢桃介などが設立した桟橋倉庫株式会社によって開発。1928(S3)年にマキノプロダクション名古屋撮影所などが誘致され、昭和６年にはカフェ－、コ－ヒ－、玉突き場、洋食堂などが並ぶ道徳銀座通りができた。名古屋南部有数の繁華街だった場所。

同湯の南の観音町には、観音菩薩が山の上に立つ観音公園や、プール、スケート場などが造られた。また、戦後は道徳公園に３０軒ほどの売春宿ができで、それが港陽園に移り、中核業者になった。

今は、駅前の道徳銀座商店街のほかは、住宅地に埋もれ、道徳公園と観音町の街路以外、ほとんどかつての名残を残していない。

途中に、これも激シブの｢道徳温泉｣がある。これも外観は化石のような銭湯だけど、出入りする客は多く、高級外車で乗りつけて暖簾を潜るご年配なんかを目撃する。中はかなり手入れが行き届いている、優れた銭湯のようだ。

さて、敷島湯。
地元の人も営業しているか判断しかねる佇まい。お世話になった中華屋の女将の話では、開けるのが大変そうな木戸があると言う。

同湯は、このあたりが栄えていた昭和１０年の創業。激レトロなコンクリの浴室はその頃のもの。モルタル平屋建ての脱衣所棟は、ここら辺りは戦争で焼けたので、昭和２５年に再建されたもの。元の建物は２階建てだった。

煤けたモルタルのファッサードには｢敷島湯｣と筆字で書かれ、看板には｢ミネラル温浴泉｣とある。くだんの木枠の硝戸には｢敷嶋湯｣とある。いったい、どちらが本当の屋号なんだろう。

硝子戸は、中華屋の女将の予想に反して、あっさりと開く。入って、まず同湯がフロントであることに驚く。それも、改装してフロントというのではない、昭和２５年にフロントの銭湯として建てられたものだ。フロントの内外が古色蒼然としている。凄い光景だ。

居眠りしていたのか、反応の鈍い爺に３８０円払って、靴を履いたまま、向かって右側の男湯へ回る。下足箱は、肉抜きした金属扉のもの。あまりのボロさに圧倒され、靴はたたきに脱ぎ捨てるだけで、使用しなかった。

脱衣所の広さは幅２．２５間、奥行３．２５間といったところ。その奥の緩衝地帯が奥行１間ほどあって、外壁側が流し、男女境側には、岩･石灯篭･池がある。全てが真っ黒のやや不気味は室内庭だ。この、全体的に煤けた佇まいは、戦後のものとは思えない･･･。

浴室は、幅２．２５間、奥行３．２５間のコンクリ造。この大きさの銭湯が多いので、標準サイズなんだろうか。天井のコンクリが一部剥落し、錆びた鉄筋がむき出しになっている。

カランは、センターサイドが６で、赤･青のレバー式。取っ手はプラスチックだけど、見たこともない古いものだ。外壁側にはカラン８で｢ゆ｣と刻印された温のみ。取っ手は金属製の古風なもので、それが現役で使われている。小生が座ったカランは極端に出が悪い。正常なのは、いくつかしかないようだ。

床のタイルは亀甲型のレトロなもの。壁はかつては白だったんだろうけど、恐らく黴が浸潤して、緑の何とも形容し難い紋様が浴室全体を支配している。強いて言えば、原爆でタイルが焼け爛れるとこうなるのかというもの。

その上が、茶色を基調とし、赤･青･黄のタイルを混ぜた帯状のタイルをを周囲に巡らしている。

さらに、その上がコンクリだけど、一見、表面の風合いが人造石研ぎ出しのように見える変った、凝ったものだ。それに奥壁上には、大きな桜のレリーフが２つ置かれている。何か、建てられた当時の社会風俗を感じさせるモニュメントだ。

休業日に、何も知らない人が同湯の中に連れてこられて、｢この銭湯は３０年前に廃業し、その頃のままなんだ｣と説明されれば、全ての人がそれを信ずるだろう。恐ろしく、激レトロな空間だ。

浴槽は、主浴槽は｢新元湯（下之一色町）｣にあったのと同様の正円形の深いもの、奥壁に２点ジェット×２の浴槽とデンキの槽がある。

まぁ、設備はボロいものの精一杯整備している。湯も清浄なものがふんだんに供給されている。また、脱衣所と違って照明はかなり明るい。清潔度は高い方だ。

上がりはオロナミンCを頂く。四谷浴場の爺と同じで、爺の反応は相変わらず鈍い。テレビを観ているのか、居眠りをしているのか･･･。

１８：２５から１９：１５に滞在する。相客は１０人くらい。ボロいけど現役性は高く、しっかり｢機能｣している。
貴重な銭湯だと思う。
設備的にはかなり限界の部分もあるだろう。レトロ銭湯ファンは、赴く価値があると思う。


	昭和２５年製のフロント。｢ぢ｣の広告がいい。