泉湯（熊本二本木町）/二本木遊廓跡

差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2012年1月17日火曜日 22:53
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 泉湯（熊本二本木町）

ナカムラです。

今日（12/22）は、「泉湯（熊本二本木町）」に行ってきました。二本木口駅（熊本市電）から、0.3キロ、4分くらいです。熊本駅から歩いても0.7キロ、8分くらいです。

朝の散歩で白い湯煙が舞う雲仙温泉の地獄めぐりなどを歩く。「湯の里温泉」という渋い共同浴場に後ろ髪を引かれながら、雲仙の山の上から島原のフェリーターミナルまでは20キロほど。

ここから熊本港まではオーシャンアローという超高速フェリーで約40分。料金も800円と安い。ただ、市街まではバスで50分。バスの本数が極端に少ないので利用者は多くはないようだけど、陸路よりも時間的にはかなり早く熊本へ行くことが出来る。

泉湯は、熊本の旧二本木遊廓内に残る銭湯。二本木口の電停で降り”三嬌橋”という歴史の生き証人のような橋を渡れば旧遊廓エリアは目と鼻の先。5年前に来た時には、遊廓の大門の石柱（片側のみ）や和風の妓楼だった建物が残っていたけど、ともに再開発などで消失している。

ただ、転業旅館の末裔と思われる旅館やホテル、一龍閣というソープランドが1軒、広い敷地の駐車場など、ここが普通の住宅地とは違うことが分かる。1階に飲食店、2階がアパートという旧妓楼の建物が今も1軒だけ残っている。2階のアーチ窓の1つがブルーシートで覆われ、風でバタバタと音を立てている。不気味かつ痛々しい姿だ。

同湯は、車が通り抜けられない細い道の奥にある。煉瓦煙突が数年前の台風で折れたため、途中から油井型の煙突を継ぎ足している。表には奥行きがないペンキが干からびたトタン外装の2階家が増築されているけど、鎧戸の湯気抜きや煉瓦煙突からして古い銭湯ということが分かる。戦後すぐくらいの建物という。

番台裏には唯一の装飾の鉄平石が張られている。そして両側にアルミサッシの扉があるだけ。かろうじてドアの上に「男」「女」と書かれているだけで暖簾などはない。

16:00の開店時刻を少しまわった頃。冬至の柚子湯をやっているせいか客の出足が早く、頻繁に扉が開閉される。そして、写真を撮っていると番台に座る女将さんと目が合った。

5年前に同じように写真を撮っていたら犬が吠え、奥から出てきた女将さんに詰問された。今日は、開店時刻や隔日営業などを電話で確認したので、予期されているのかお咎めはない。犬も歳を取ったのか、奥の釜場の辺りに居るけど吠えない。

中に入れば、コンクリのたたきは狭く、木目プリントの新建材で補修された木組みの番台と古い靴棚がある。ちゃきちゃきとした女将さんに相方が風呂銭350円を渡す。それなりの荷物を抱えているので聞かれなかったけど、やはり分かっているようだ。

脱衣所の広さは、オリジナルは3間四方。しかし、男湯は外壁側の1間ほどは白くペンキに塗られたベニヤ板で無造作に仕切られ狭くなっている。天井も2階が載っているので高さ1間と2/3くらいと高くなはく、茶色のストレートな天板が使われている。床は古い板の間に籐の敷物。その他、MORIYAのアナログ体重計、木製ベンチなどがある。

16:10。開店から10分しか経っていないけど狭い脱衣所の床には丸籠が既に6､7個並んでいる。ロッカーはない。小生も邪魔にならない場所を女将さんに確認して籠を並べさせてもらう。

浴室は、幅3間、奥行4間。外観から受ける印象よりも大型の銭湯だ。天井は構造材むき出しの木造のトラス構造。男女境の上に数本の支柱を置き補強している。そして、中央に鎧戸の付いた四角い湯気抜き。木造のトラス構造は、古い工場などで見かけるものの銭湯で見るのは初めて。銭湯としては珍しい構造だと思う。白タイル張りの壁の上部や構造材の先に見える天井（屋根の裏側）は茶色で統一。このため、やや暗く穴蔵のような印象を受ける。

中央にはかつてあった島カランを撤去した跡がある。カラン数は男女境に5機、外壁側に5機。湯桶を載せる低い台がある関西風の造りになっている。床はブルーとピンクのタイルを組み合わせた凝ったもので、今は見ない古いものだ。

浴槽は、奥壁の左右のコーナーにやや離れて2つ、独立してある。外壁側コーナーにある主浴槽は1間強四方ほどで先客4人ほどが柚子湯に入っている。お湯は井戸水を重油で沸かしたものらしく、42度くらい、すっきりと柔らかいお湯だ。もっとも熊本市の水道はすべてが阿蘇からの伏流水というミネラルウォーターなので、水道を使っていても大差はないのかも知れない。

奥壁には鮮やかな色使いのペンキ絵がある。渓流を挟んで左手に紅葉、反対側に松が描かれている。中央の渓流の奥は深い緑色で灌木が隙間なく描かれている。ダークグリーンを基調にしているため、紅葉や所々の黄葉の色が冴えている。絵の傍らにはこの絵を手がけた「米本看板店（旧世安橋際）」とあって、絵の下には13枚の広告看板が隙間なく並ぶ。”国鉄物資部”とか既に熊本朝日放送の本社に替わっている”二本木鉄道病院”などの文字が見える。電話番号の局番も2桁。少なくとも四半世紀以上は昔のものだ。

熊本の地で鮮やかなペンキ絵を見ながらゆっくりと柚子湯に浸かっているシアワセを噛みしめる。阿呆だけど無上の安らぎを感じていた。

その鮮やかさから、このペンキ絵は最近に描き替えられた絵だと確信していたが、女将さんに聞いて驚いた。「30歳半ばになる娘が生まれた頃だから…」実に35年くらい前に描かれたものだと言う。米本看板店も今残っているかどうか分からないという。35年も前の絵。。。とても信じられないくらいに艶と鮮やかさを保っている。

小さい冷蔵庫で牛乳も売っているようだが、今日は待ち合わせを控えているので先を急ぐ。冬至の木曜日の開店から1時間ほど滞在。相客は10人は超えていた。外観は素っ気ないけど、思った通りの味わい深い郷愁銭湯だった。帰りには女将さんが「もらい物だから。蜜柑…」といって、新鮮な蜜柑を2個持たせてくれた。外はかなりの寒さ。柚子湯で身体ほかほかになった上に、心もじんわりと温かくなる。

さて、上がりは今回のツアーの発端となった重要なミッションが控えている。相方の旧友からの熊本飲みの誘いだ。福岡在住の2年前は、昼過ぎなのにいきなり角打ちからスタートし、箱崎の大学湯へ向かったっけ。

現在は、市役所に勤務。半ばノンプロのツアコンにいざなわれて熊本の繁華街の通町筋、昔大きな火災事故を起こした旧大洋デパート（現ダイエー）で古いエレベーターをチェック、洒落た飲み屋が並ぶ上乃裏通りなど軽く町歩きを楽しむ。そして、床が木板張りの古い市電に揺られ、水前寺公園電停前の「五郎八（いろは）」という居酒屋へ繰り出した。

「五郎八（いろは）」は、熊本で盛んに食べられる馬刺、馬ホルモン焼きありの超繁盛居酒屋だった。地元で愛される店らしく、棚のボトルキープも「県庁」「〒」など客のジャンルごとに物凄い数が並んでいる。途中、仕事を終えたご主人も合流。ピッチが早い2人が向かいに並ばれると小生のピッチも上がる。さらにメートルも上がる。久し振りに沈没。嗚呼、熊本。。。

《前回訪問：2007.01.29.》

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ナカムラ　（Masayuki Nakamura）
URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ （風呂屋の煙突）
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