差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2014年8月10日日曜日 7:14
宛先: 銭湯ML (sento-freak@freeml.com)
件名: 菊の湯(盛岡市茶畑)

ナカムラです。

今日(7/19)は、「菊の湯(盛岡市茶畑)」に行ってきました。盛岡駅(東北本線等)から、3.0キロ、35分くらいです。

早朝のこまち号で東京から盛岡入り。シネマ通りのホテルに荷物を置いて、写真館(ライト写真館、佐藤写真館、小原写真館)を回り大同苑で盛岡冷麺を食べて一服。午後は、「注文の多い料理店」を出版したという民芸の光原社で喫茶部。

その後、紺屋町の釜定で南部鉄器の鉄瓶を品定め、菊の司の酒蔵隣の平興商店で新鮮かつ割引の酒を買い込む。さらに、肴町近くの六分儀で再びの喫茶部を経て、昭和の風景が強烈に残る、ボロバスを走らせている岩手県交通の盛岡バスセンターで昭和の郷愁に接する。そして、八幡町の旧遊廓を経て、松尾町(旧新馬町)の畜産会館の隣で、岩手県が日本一の農耕馬・軍馬の産地だった頃の遺構、旧馬検場に遭遇。そんな町歩きをして、一日締めとして銭湯に向かった。

さて、菊の湯。昭和27年築創業の煉瓦煙突を有する地方の中型銭湯。釜場を見ると、間伐材なのか、皮まで綺麗に剥いだ薪が積まれている。これで井戸水を沸かし、さらに備長炭と檜を通したお湯が供されている。

元々は洋風下見板張りか何かだっただろうか。縦長の回転窓にイニシエを感じるものの、今は樹脂製のパネルをまとっている。冬にはそれなりの積雪もあるのだろう。落雪防止の金具が、エントランスのトタン屋根と2階のそれにも取り付けられている。

男女の入口は屋号を記した偏額を掲げた回転窓のある番台が有る部分を挟んで、左右に離れている。それぞれに2房の大きな暖簾が風に揺れている。2階よりも半間ほどせり出した1階部分には、番台を挟み、入口&靴脱ぎ場、トイレが左右対称にレイアウトされている。

中に入れば、一部簀の子を敷いたコンクリのたたきで、右手に靴棚、左手には開放された扉を介して番台。靴脱ぎのスペースは小さいものの、2枚の扉を閉じればここが寒気を遮る緩衝地帯となる。寒冷地仕様の二重構造だ。

相方が二人分の風呂銭780円を手渡す。番台には優しそうな女将さんが詰めている。番台の左右には鳥かごが置かれ、脱衣所全体に小鳥のさえずりが響き渡る。動物の写真も多く動物が好きなお人柄らしい。

脱衣所の広さは、幅2間半、奥行2間ほど。天井は平格天井。ロッカーは外壁側に下段が丸籠収納スペースになったタイヨー錠のものが12個ほどあったようだ。今は2つを残し、錠はおろか扉さえも失われている。その結果、丸い籐編みの脱衣籠が主力のようだ。

表の部分は黒い塗装が施されたタイヨー錠は、どこかのOEMなのかな。ロゴ以外FUJIや末広錠と構造やデザインが基本的には同じ物に見える。

小さな冷蔵庫には瓶牛乳をはじめ各種飲料がぎっしりと入っている。隣にはアイスクリームケースもある。日曜日には朝湯までもやっている。地方銭湯としてはかなり希な存在。客も多く、かなり地元に支持されているようだ。

男女境には、ライトアップされた美しい水槽が置かれ、その上には田村隆一の銭湯の銭湯廃ればの詩が額装されている。テーブルには各種新聞が置かれている。その他、銘を見つけることが出来なかった古いアナログ体重計、飾りのかなり大きな団扇、SLの写真パネルなどが所狭しと並んでいる。

浴室の広さは、幅2間半、奥行3間半ほど。天井は山形で、幅広の木板に黄色地に淡い緑色のペンキ塗り。中央には湯気抜きが開いている。

島カランは入口付近に横置きに1つ。レバー式のカランが2機ずつ付く。さらに、外壁側に7、奥壁側に1、男女境に1。湯桶を置く台がある関西式だ。湯温度は、カップラーメンが確実に美味しく出来るほどの熱湯だった。湯桶に1/3位の熱湯を注ぎ、残り2/3に水を注ぎ込んでようやく適温になる。もっとも、外壁側のカランには最初から適温のお湯が出るシャワーがある。床のタイルはベージュの6センチ角くらいのもの。壁や男女境には中判の白いタイルが使われている。

北海道や青森もレバー式のカランが多かったと思う。関東以外は関西と同様のレバー式が主流なのかな。

浴槽は中央、男女境に接するように1間×1間強の大きさのもの。大きくはないけど深い浴槽でたっぷりとお湯が入っている。男女境には備長炭と檜が仕込んであると思われるアルミの金属ケースが据えられ、熱湯と濾過された循環のお湯がそれぞれ注ぎ込まれている。浴槽の湯温は42度位。井戸水を薪で沸かした円やかなお湯。掛け値無しにいいお湯だ。1日の疲れがゆっくりと溶けていくのが分かる。そして、精神の安息にもじんわりと効いて来る。

ビジュアルは、奥壁に看板屋が描いた渓流の小さなペンキ絵。周囲に東日本ハウス、南部鉄器など、地方色豊かな、でも地味なアクリル広告看板が並ぶ。看板屋まかせながら、今でも時折絵が描き替えられているという。

さらに、男女境には金太郎のモザイクタイル絵。熊を投げ飛ばしている絵柄。女湯は鯉の瀧昇りに乗る金太郎らしい。女将さんは普段は空いている女湯に客が居て、見せることが出来ないことを悔しがっていた。

土曜日の18:45から19:55に滞在。相客は入れ替わりの高校生5人と背中に彫り物を施した若者を含め3人の計8人。古いけどそれなりに手が入っていて、特にレトロな感じはしない。しかし、お湯の良さ、熱湯が出るカラン、地方銭湯独特のペンキ絵と広告など、なかなかだった。

そして、女将さんがいい感じだった。子供の頃から知っているのだろうか、寛ぐでもなく上がってさっと帰る彫り物の若者に、身体に気をつけるようにと、本当に優しく声をかけていた。何かを感じるいい光景だった。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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                  地方の小銭湯なのに日曜日は朝風呂を沸かしているのが凄い。










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