差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2015年11月19日木曜日 21:32
宛先: 銭湯ML (sento-freak@freeml.com)
件名: 金時湯(名古屋市中村区竹橋町)

ナカムラです。

今日(5/3)は、「金時湯(名古屋市中村区竹橋町)」に行ってきました。名古屋駅(東海道本線等)から、0.9キロ、10分くらいです。

5月の連休は鉄道や宿が混雑して行程変更の自由度が低い。思い返せば、新幹線で名古屋まで移動して、地下鉄や名鉄でレトロな様々が残っている名古屋近郊の街を銭湯を巡りながらぶらぶら歩いていることが多い。

朝食を軽めにし、昼は大須の「せろり」で”鉄板イタリアン(卵焼きを敷いたナポリタン)”を食べるのが我々の定番になっている。生パスタは余り好きではないけど、ここの鉄板イタリアンはやみつきになる魅力がある。

大須は浅草に似た雰囲気がある。相方は和装に目覚めたせいもあり、そっちこっちにあるその手の店に引っ掛かっている。米屋からスタートしたあのコメ兵の本拠地が大須にあって、大きな和装店を展開していた。中古だけど、打ち掛けや振り袖なんかも安い値段で無造作に吊されている。数多く着物屋に行ったけど、触れるのは勿論、婚礼用の晴れ着など間近で見るのは初めてだった。

その後、民間の食品市場では日本最大と言われる柳橋の食品卸売市場を通り、名古屋のレトロ商店街として名を馳せる円頓寺(えんどうじ)商店街を抜ける。

脚も疲れ日も暮れ始めたので、コメダ珈琲でお茶してから懸案の金時湯に向かう。

同湯は駅西銀座というシャッター街の屋根が尽きる辺りにある。この商店街は旧中村遊廓への通り道。初めて名古屋に訪れて以来、何度も同湯の前を通り、気になりながらもなかなか順番が回って来なかった。そうこうしているうちに、昭和3年築という建物は、名古屋市の「登録地域建造物資産(No.0090)」となったようだ。”今日は入るぞ”と満を持しての訪問だ。

前の道路に歩道が整備された時、歩道分だけ同湯の敷地が削られた。その影響を受けたのだろうか、タイル張りながら外観は素っ気ない。同湯を過小評価していたのはそのせいかも知れない。しかし、銭湯は入って見なければ、その味わいは分からない。最近はチープな外装材料で適当に補修されていたりするのでなおさら。同湯の内部は外観よりも遙かに古風だ。

入口扉の奥に狭い通路を介し、もう一枚の扉がある。寒冷地の銭湯に見られる二重構造。今日は暖かく爽やかなので、双方の扉とも開け放たれている。通りから脱衣所が見通せないように、奥側の扉に男女湯それぞれ2房の暖簾が下がる。

暖簾を潜ればコンクリのたたきがあって、女将さんが詰めた番台と木製桟に金属板鍵の錠が付いた下足箱、円形タワー式の古い傘立てが置かれている。相方が女将さんに、2人分の風呂銭840円を渡す。なかなか気さくな感じのお婆ちゃんだ。

下足箱の錠に銘はなく、パテントの刻印があるのみ。板鍵はアルミより重い材質で、番号の他に丸に男の刻印が、裏には”ゲタ”の刻印がある。これも中京地域の銭湯の特徴だ。

脱衣所の広さは、1間はある緩衝地帯は別として、幅2間半、奥行5間ほど。天井は2階を載せながら2間強と十分な高さがある。ただ、壁は昭和中期的な木目プリントの合板、天板は今はほとんど見ることが無くなった直径2ミリほどの穴が多数開けられた石膏ボードが、かなり煤けた状態になっている。そして、床は樹脂製のゴザが敷かれている。

ロッカーは外側にのみ整然と並ぶ。木製のもので、木枠の扉には摺り硝子が填められている。算用数字の部分だけが染め抜かれたように透明になっている。そして、ロッカーに収納出来る角型の脱衣籠が珍しいものだった。籐ではないんだろうけど、それに似たかなり太い素材で組まれたもの。掴む部分は、オリジナルなのか縁に金属板が張られ補強されていた。

木造の脱衣所棟とコンクリの浴舎が、1間ほど離れ、それぞれ独立している。その間に奥行1間ほどの緩衝地帯。さらに、タイル敷きの部分が脱衣所側に奥行1間ほど延びている。タイル敷きの部分が、やや傾斜しつつも都合2間ほどとかなり広い。土俵の”得俵”のような仕切りを設けて脱衣所側にもタイル敷きが延びる中京銭湯もあるけど、同湯ほど広い緩衝地帯に出会ったことはない。

その他、古い広告が記憶に残る男女境の鏡、古いマッサージチェア、瓶入りのコカコーラやファンタグレープが入った冷蔵庫、縁台などが置かれている。

浴舎は、名古屋銭湯特有の古い鉄筋コンクリート造。広さは、幅3間強、奥行4間ほど。元々は脱衣所と同様に幅2間半だったのだろうけど、客の多い時代に半間強拡幅されたようだ。天井は山形。確か道徳の敷島湯などもそうだけど、ペンキすら塗ってなくて、古いコンクリの構造材が荒々しく剥き出しになっている。

島カランはなく、カラン数はセンターに6、外壁側に6。床のタイルは白・茶の風車型。入口側が古く、井桁状のタイル遣いになっている。

その多くは稼働していなかったり痕跡だったりするけど、名古屋の古い銭湯の水シャワーが緩衝地帯にあることが気になっている。しかし、同湯は拡幅したためか、普通に浴室内の外壁側に設置されていた。

浴槽は、奥壁に接して何らの設備が無い素の浴槽、電気、バイブラの3槽。主浴槽はセンターに小判型のものがあって、半分が深槽、半分が浅槽になっている。

現在ビジュアルはない。しかし、奥壁が”額縁”状になっていて、中判のミッキーマウス、ドナルドダックなどのディズニーのキャラクターが描かれたタイルで塞がれている。昔はガラスを介して、その奥の庭を眺めることが出来たようだ。外観を見てもよく分からなかったけど、今も石灯籠や庭池が置かれた庭が眠っているという。

上がりは瓶入りのファンタグレープ100円。瓶入りのファンタなんて記憶に無いくらい久し振りに飲んだ。ほとんど見かけないので、製造されていることに素朴に驚いた。

祝日の火曜日、16:40から17:50に滞在。相客は7、8人くらい。入口は開放され、業務用扇風機は唸りをあげて回っている。風が心地いい季節。そして、季節は一気に夏に向かっていると感じた。

上がりの一杯は、名古屋のお屋敷町、主税町の旧春田鉄次郎邸(設計:武田五一)で営業するレストラン「デュポネ」へ。4年振り、予めラストオーダー近くの時間を予約しておいた。他の客は帰ったのだろう。連休なのに静かな個室でゆっくりと一杯やった。

《前回訪問:2013.09.16.》

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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                              中京銭湯特徴的なコンクリ浴舎




















                  すぐ近くにタイルが印象的な「新宿荘」というアパートがあった。









  旧春田鉄次郎邸(設計:武田五一)で営業するレストラン「デュポネ」
















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