差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2011年2月22日火曜日 23:27
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 寿湯(尾道市栗原東)

ナカムラです。

今日(2/6)は、「寿湯(尾道市栗原東)」に行ってきました。 尾道駅(山陽本線)から、0.8キロ、8分くらいです。

ドーミーイン倉敷の「阿智温泉」で朝風呂を浴びて、朝の倉敷の町を散策。昔ながらの石の浴 槽と床がある「戎湯」を見て、初めて鶴形山に登って阿智神社へ。朝の倉敷の町並みがなかな か良かった。

そして、倉敷駅から快速で尾道へ。途中、笠岡駅手前の線路際にあって、車窓からも眺められ る笠岡・旧伏越遊廓をチェック。地元の人が幽霊が出ると言っていた3階建ての洋風の旧娼家 だけでなく、脱走を防ぐためという窓の外側に鍵が取り付けられていた過酷な歴史の証人だっ た旧娼家など、付近一帯が大きな更地になっていた。

さて、久しぶりの尾道。相方に勧められて、間口が狭くカウンターだけの「めん処みやち」と いう店で、中華そばに天ぷらが入った「天ぷら中華」なるものを頂いた。

この店は、地元を中心とした客の出入りが絶えない。みんなうどんやラーメンをかき込んでは、 足早に席を立つ。外に順番待ちもできるけど、観光客相手の尾道ラーメン店と違って回転が早 い。尾道では業歴の長い老舗らしい。素朴でいい店だった。何より、初めて食べた天ぷらラー メンは、何の違和感もなく、意外な美味しさだった。

腹が朽ちた後は「千光寺裏」と呼ばれた久保町の遊廓跡。数ある遊廓跡の中で、遊廓の規模や 当時の面影を残す建物の数という点で、もっと注目されていい遊廓跡だと思っている。ランド マークのたばこ屋の前の木製の電柱が新しくなっていたけど、旧遊所の建物群は、不思議と変 化がなかった。

この遊廓の先には尾道の漁師町がある。そこの金比羅湯を見に行ったが、すぐ手前、古くて大 きな廃業銭湯がお好み焼き屋に転用されていた。浴室は解体され駐車場。しかし、隣家の側壁 に浴室のタイルの壁が残る。営業が続いていれば、尾道でもっとも大きな銭湯だったと思う。 しかし、構造的には「長屋」で、隣家と壁を共有していたようだ。

金比羅湯は、モルタルの簡素な銭湯。開店時間少し前に、傾けて暖簾が掛けられた。菱形の硝 子がはめられた古いドアが開いていて、爺さんが脱衣所で着替えをしていた。暗かったせいも あるけど、外観よりも古い印象。近所の人の話では、最近、定休日が増えているようだ。

さらに、山陽本線の下を潜って山側にある「日乃出湯」へ。同湯はほんの1週間ほど前、1/27 を以て休業に入ったと聞いていた。建物も庭も荒れている。営業中からこうだったんだろうけ ど、重油の値段が上がって赤字が膨らんだことが、「都合により休業」ということのようだ。内 部は、尾道随一のレトロさが残っている。復活はあるのだろうか。。。

大宮湯では、初めて裏に周り、パイプ式の細い煙突を見つけることができた。傍らに「遊亀山 浄泉寺」の大きな石柱が建つ旧みやこ湯(2005年廃業)の建物はそのまま残っている。駅北側 の栗原温泉、大栄湯は暖簾を掛け盛業中。商店街のなかの古い看板建築銭湯の旧大和湯は廃業 して20年近くになるものの、場所がいいので、喫茶店&土産物店として相変わらず風呂屋の屋 号を掲げたまま余生を送っている。

さて、開店時間の16:00を回った。5年ぶりの寿湯へ向かう。

2週間くらい前だろうか、電話をしたら2月の営業日がまだ決まっていなかったけど、女将さ んは「その日は沸かす」と即決だった。聞けば、営業時間が16:00から19:00くらいまでと、5 年前より1時間短くなっていた。

表通りの床屋さんの路地を入って、さらに奥まった所にある。たどり着くのに少々難儀する銭 湯。着くと2本の蝋梅の黄色い花が満開で、独特の香りに満ちている。

寿湯は、昭和6年築の尾道の古豪。終戦間近、徴兵年齢が45歳に引き上げられた。この時に召 集令状を受け取り、先代は戦地で亡くなっている。この先代が向島で創業し、本土尾道に移り、 この銭湯を建てている。

先代がやっていた戦前までは、海草を敷いた蒸し風呂があって、2階で休憩も可能というスタ イルの風呂屋だった。三助夫婦が釜場で寝起きし、営業時間も15:00から23:00くらいまでの 長い時間の営業だった。

番台周りや脱衣所に、創業以来のレトロ極まりない雰囲気が残る。番台には広島県の浴場組合 の組合長を務めているご主人。補聴器を使われていることに5年の時の流れを感じる。全国の 銭湯が3800軒を割ったことを教えられる。4500軒という古い数字が頭にあったので、少々驚 いた。そうこうしているうちに、呼ばれて奥から女将さんも出て来て、歓待してくれた。

浴室はシンプルで清潔。相客がいないのに湯気が籠もっているのもいつもながら。かつての広 島駅の地下道と同じだったという、あまり見かけない古い御影石調の大判タイル。そして、か つて蒸し風呂があったというブルーペンキ塗りの木製の小さな扉が奥壁にあるのが印象的だ。

浴槽は、中央、男女境に接して、広島特有の3段の浴槽が1つ。42度弱のお湯は地下3メート ルほどの浅井戸と水道のブレンド。それをA重油で沸かしている。柔らかく、身体だけでなく、 心も解放される心地よさがある。いいお湯だ。

この湯船につかり、戦前物の模様ガラスがはめられた木製窓を通して、ひとり尾道の夕陽を眺 めていた。時空の無常の中で、おのが人生が去来する。

いい水がない尾道に、現在、仕込みの酒蔵はない。男女境の”うぬぼれ鏡”にその銘が彫り込 まれた「露の誉」という酒蔵は、今は仕込みは止めてしまったけど、同湯と同じ水路の水を用 いて酒を仕込んでいたという。同湯は水路の上に建っているので、同じ水脈の井戸水を使って いる。

5年前に風呂銭を受け取ってもらえたのか憶えていない。今回も相方とご主人が風呂銭を行き つ戻りつさせていた。。。同湯の風呂銭は400円・・・。

アーチのような庭の木が蝋梅とは知らなかった。満開の蝋梅の季節に再訪できたのは何より。 今日は2月6日の「風呂の日」。尾道の寿湯。今回も自分にとってのかけがえのない名銭湯だっ た。

《前回訪問:2005.12.25.》

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ (風呂屋の煙突)
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