桑の湯（塩尻市大門一番町）

差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年6月3日日曜日 14:20
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 桑の湯（塩尻市大門一番町）

ナカムラです。

今日（5/26）は、「桑の湯（塩尻市大門一番町）」に行ってきました。塩尻駅（中央本線）から、0.8キロ、9分くらいです。

今日は、あがたの森公園で開催されている”クラフトフェアまつもと”に昨年に続き買い方として参戦。いくつかのうつわを買い求める。大雨だった去年と比べ天気は良かったものの、人が多いのは相変わらず。ちょっと閉口。町に出ても混雑していた。

喫茶のおきな堂、旧土井尻町の遊廓跡、フランス菓子のマサムラと散歩し、身体が埃っぽいので塩尻の桑の湯に急ぐ。

塩尻駅は、新宿からの中央東線と名古屋からの中央西線の分岐駅。昔は同湯のある大門一番町の市街中心にあった。今は、名古屋から松本へスイッチバック無しに行けるように線形が変更され、それとともに駅が移動。市街の中心から少し外れた大門八番町にある。

大門八番町から順に番号が若くなっていき、大門一番町に入ると建物の後方に建つコンクリ煙突が見えてきた。煙は確認できないけど湯桶が床のタイルとぶつかるカコーンという音が聞こえくる。事前に定休日と営業時間は確認しているものの営業していることに安堵する。

岡谷の町もそうだったけど、塩尻の町も整備されている感じだった。県民性なのだろうか。同湯も庭木は丁寧に刈り込まれ、周囲は掃き清められている。

養蚕で栄えた歴史を感じさせる”桑”の文字を冠する屋号を持つ。創業は昭和4年。火災に遭って昭和26年に現在の建物に建て替えられている。平入の2階建ての建物。瓦屋根の載せ方がこの地方の蔵などと同様の造りで、どっしり感がある。しかし、建物のどっしり感とは裏腹に、窓枠や扉の上部の桟などの建具の意匠は繊細だ。

暖簾は掛かっていない。独特の模様硝子の扉を入ると、地方銭湯でよく見る番台裏が窪んだ構造でハの字型に男女の入口がある。レトロな硝子戸には古風なレタリングで「殿方浴室」と記されている。番台裏はピンク、紫、白など3色くらいのタイルが使われ、屋号を記した銘板もあるようだ。しかし、自販機やら傘立てがあってあまり見えない。。。

2枚目の硝子扉を開けるとSakuraｰG錠の下足箱がある独立した靴脱ぎ場。ここから更にもう1つ硝子戸を入ってやっと番台の横に立つことが出来る。寒冷地の銭湯は外と脱衣所の間に緩衝スペースがあるのがあたり前だけど、緩衝スペースが2つある構造は極めて珍しい。

番台は、板張りで高さが無い大きなもの。床が新しく張り替えられているのでオリジナルではないようだ。半纏を着た大将が背中を丸め、イヤホンでラジオを聴いている。塩尻の銭湯料金は380円。

脱衣所の広さは3間四方。2階が載っているので押縁の天井高は1間半ほどと高くはない。旧塩尻駅からも近く市街の中心といっていい場所。地方銭湯にしては大型の銭湯だ。

同湯の第一印象は、清掃というか、古いものを磨き上げるというレベルまで仕上げ、端正で清らかというものだ。最も尊い姿で銭湯を続けている。

脱衣所には島ロッカーがなく広々としている。ロッカーは外壁側にSakura-2錠のものが並ぶほか、籐編みの丸籠が現役で使われている。

男女境は古い造作のまま。浴室扉の上の桟も簡潔な意匠ながら同湯の基調を汲んだ統一感のあるもの。いい雰囲気だ。

浴室の入口脇に菖蒲湯の貼り紙があった。小生は気が付かなかったけど、日付が6月5日だったようだ。地方によっては稀にこの日に菖蒲湯を行うらしい。初めての遭遇だ。。。

また、浴場組合の塩尻支部の古い注意書きが掛かっていた。これが掛けられた時には塩尻に何軒かの銭湯があったのだろう。同湯は今、塩尻で最後の1軒になっている。

浴室は、幅3間、奥行4間。天井は大きく言えばトランプのクラブのような形をしている。凸型をベースに両ウィングも高天井も円弧を描き膨らんだように見える。更に高天井中央に長方形の湯気抜きが孔いている。さらに釜場に通じる扉はアーチ型。外観は普通だったので内装の変わったデザインに驚かされる。

壁は整備されたペンキ塗りのトタン。天井は樹脂製だろうか。古い洋館のように、トタンと同様、ごく淡いモスグリーン色で統一されている。

男女境は古いダイヤ硝子。すぐ傍らに立てば、シルエット以上のものが透けて見えるだろう。おおらかな造りだ。島カランは1つで、カラン数はセンターから5・4・4・5。タイル類はすべて更新され、古いものは残されていない。カラン台は御影石調のタイル。床は足触りのいい厚手のグレーの物が使われている。

外壁側の硝子窓に目をやって驚いた。透明ビニールの内張りを施した摺り硝子の外窓と透明な硝子の内窓からなる三重の構造になっている。2枚の硝子戸の間は40センチほど。威圧感を与える堅牢さはない。さり気ないけど、比類ないほど厳重な防寒対策だ。これが信濃の”しなやかさ”というものなのだろうか。見事だと思った。

浴槽は、奥壁に接した深浅2槽。主浴槽の浅槽は小滝のような焚出し口とジェット×2、深槽は何らの仕掛けがないもの。湯温は41度くらい。

塩尻は日本海側と太平洋側を分ける分水嶺の町だけど、残念ながら井戸水ではなく、水道水らしい。それを解体の材木で沸かしている。湯温は41度くらい。あまり特徴は感じられなかったけど、柔らかですっきりとしたお湯だった。昨日の岡谷・富士之湯もそうだったけど、長野の銭湯はぬる目の湯が多いのかな。去年の松本の塩井乃湯もそうだったような。。。

土曜日の18:55から19:45に滞在。最初は小生だけだったけど、途中から親子連れを含めて相客は 3人になった。大きく清潔に維持された素晴らしい銭湯なのに少し寂しい。大将の体調も万全ではないようだった。

80歳近い女将が一人で切り盛りする昨日の岡谷・富士之湯もそうだけど、同湯を後にした時、幻の光景のような錯覚を憶えた。静かで朧気な印象が残る優れた郷愁銭湯だった。

塩尻は、そば切りの発祥らしい。それにも増して、「山賊焼」というものが有名らしく、そっちこっちで”山賊焼”の幟を見る。客が入っているのを確認して”元祖山賊焼”という立派な石碑が建つ「鳥料理山賊」という居酒屋に入った。

しかし、・・・。学生風の大宴会の座敷とイカれた感じのヤンキー10匹のこれまた大宴会の座敷に挟まれたテーブル席。うるさくて向かいの相方との会話も成立しない。

混雑で料理が出てくるのが遅いうえ盛りつけまでもが見事なまでに混乱している。波風を好まない相方が、珍しく出ようと言う始末。記憶に残るワーストな飲み屋だった。

そう、山賊焼は大きな骨付きのフライドチキンだった・・・。

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