差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2016年2月25日木曜日 22:24
宛先: 銭湯ML (sento-freak@freeml.com)
件名: 松本湯(綾部市新宮町)

ナカムラです。

今日(8/22)は、「松本湯(綾部市新宮町)」に行ってきました。綾部駅(山陰本線等)から、1.0キロ、12分くらいです。

綾部駅前のビジネスホテルに宿を取った。開業8周年とうたっている。前に泊まった時は開業直後だったので8年振りの綾部。

チェックインを済ませ、駅の南側に広がる市街とは反対、北側に広がるグンゼの本社事務所や工場の建物を見に行く。グンゼ(郡是)は本社を大阪に移しているものの、登記上の本社は、今も創業地の綾部に置いている。今は、研究施設や付加価値の高い電子材料などを若干製造する、規模としては小さな工場になっている。

残念ながら大正時代の本社事務所は週一回の金曜日にしか観ることが出来ないけど、絹織物時代の旧繭倉に設えられた資料館を見ることが出来た。肌着からの連想で綿紡績からスタートした会社と思っていた。しかし、品種改良で社名を冠する繭を開発している。絹の素材代替のナイロンによる靴下が、同社の発展の原動力だったようだ。

和服の反物や絹の女性下着など、年代順にグンゼ製品が展示されていた。ちょっと高い値段は”金の品質、銀の価格”というコピーで乗り切ったようだ。

さらに街を歩いていると、綾部には明治時代に興った三大新興宗教(天理教、金光教)の1つ、戦前に弾圧された「大本教事件」の大本の聖地らしく、和風の巨大な拝殿があった。

そして、松本湯にも近い町外れの里山の麓の月見町の、表通りから見通しにくい形状の道の奥に旧遊廓があって、往時の建物がスナックや居酒屋などに転用されている。

さて、松本湯。日付を確認すると2006年11月18日の早朝だったようだ。前の晩に竹の湯(廃業)に入って、旧遊廓を目指して歩いていると松本湯のご主人が店先を清掃をしていた。お願いして、店内、釜場、そして曳家で後方に移された明治期に建てられた旧松本湯建物を見せて頂いたことがある。

再訪を期して8年。漸く入浴の機会がやってきた。その間に営業時間が16:00から長くても18:30までと、かなり短くなった。決まった客だけを相手にお湯を沸かしているようだ。

平面的な木造の2階家。奥行はないものの立派な千鳥破風のエントランスが付いている。後方には針金で支えられたパイプ煙突が見える。

何のアプローチもなく、前の道路からいきなり暖簾をかき分けアルミサッシの扉を開ける。

中に入れば奥行き1間ほどのコンクリのたたきと木組みの番台。番台の反対側にはロータリー型の古い傘立てや簀の子を介して横長King錠の下足箱がある。

道路側は木製桟のガラス戸があって、表のコンクリ塀との間が、狭いながらも庭になっている。家が隙間なく建ち並ぶロケーションにあって、庭を愛でるという役割よりも、採光上無くてはならないもののようだ。

脱衣所の広さは、幅2間、奥行4間。奥行きのうち入口方の1間はコンクリのたたき。浴室方の1間はタイル張りの緩衝地帯に充てられている。

2階が載っているので平格天井の高さは1間半もない。天井の一部はかなり撓んで下に膨らんでいる。ロッカーの上に4つ並ぶ回転窓の1つは、何時の間にか欠落し、隙間なく建つ隣家の、藁を練り込んだ剥き出しの土壁が見える。

失われた窓がそのまま放置されていることが、この建物の行く末を暗示している。一方で、入口の扉がアルミの扉に代わっているほか、ほぼ昔ながらのオリジナルが残っている奇跡がここに有る。

浴室は、幅3間、奥行4間ほど。天井は四角錐型で中央に湯気抜きがある。カランは外壁の6機をメインとして、奥壁に4機。床のタイルは6センチ角くらいの濃淡の茶色のものが使われている。

浴槽は、男女境に接するかたちで中央に置かれた深浅2槽。湯温は42度弱。重油で沸かしているお湯だけど、尖った感じはなく実に円やかな肌触りがある。相客は居ない。静寂と自然光ゆえの落ち着いた雰囲気の中で、こんな空間に居る幸せを感じる。そして、様々なものが去来して行く。

ビジュアルは何もない。

土曜日の16:45から17:40に滞在。平格天井はかなり撓んでいたものの、朝から清掃しお湯を沸かしているように、清潔に維持された脱衣所、浴室がある。そして、柔らかく清澄なお湯。しかし、1日2時間余りの営業時間に止まり、相客は行きと帰りに店外でそれぞれすれ違ったものの、店に入ってからは無かった。

街のいくつかで、生活道路を通行止めにして地域の納涼会が開かれている。上がりの一杯は駅前食堂の「盾」。寿司に天ぷら、さらに鰻重まで食べることが出来る大衆食堂。激渋ではないけど。

《前回訪問:2011.11.18.》

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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2006.11..08.撮影





                                     旧竹の湯




     前回綾部を訪れた時に入った旧竹の湯。看板がまだ残っていた。格子で組まれた番台が稀有で見事だった。




              松本湯にも使い旧月見町遊廓に抜ける前衛の飲み屋小路の跡と思われる通り。




                                 旧月見町遊廓の目抜き通り




                           グンゼの2代目本社(昭和8年築)




                  旧郡是製糸本社(大正6年)。グンゼは生糸の生産からスタートしている。




            グンゼスクエアとして生糸の繭倉が企業史料館などと整備されていた。





             松本湯近くの古い薬店。新店が市街の方にあった。昔は同湯辺りが栄えていたのだろう。





                綾部駅の傍らには天然温泉施設があるけど、近くの一の湯も盛業中。

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