差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2008年6月11日水曜日 23:40
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 翁湯(栃木市泉町)

ナカムラです。

今日(6/6)は、「翁湯(栃木市泉町)」に行ってきました。

栃木駅(東武宇都宮線)から、1.7キロ、20分くらいです。

金曜日の18:00頃に夕方会社を出て、大手町経由で,北千住駅から東武特急「しもつけ号」に 乗る。東武特急というとスペーシアを思い浮かべていたけど、古風な車両だ。テーブルが前の 座席の背もたれに付いている。従ってリクライニングではない。昔の国鉄の特急ってこうだっ たなぁと懐かしい。

栃木は、20年ほど前、足立区梅島地区での保険のおばちゃんの採用実習を逃げ出して、ただ 時間を潰すために、あて無くやって来たことがある。その時は、駅周辺を少し歩いただけ。そ れでも素敵な町だという印象が残っている。いくつもの川が流れ、川越のような蔵の町だ。埼 玉・川越市や千葉・佐原などと協働して「蔵の町サミット」が開かれている。東武線の高架化 に伴って、小さいけど瀟洒だった駅舎は無くなっている。駅前の印象は大きく変わったけど、 路地に入り込めば古い建物が残っているのは変わらない。

さて、翁湯。 21:00の仕舞まで1時間ちょっと。タクシー運転手らに栃木の赤線跡地域を確認した後、タク シーで同湯に向かう。日光例幣使街道の傍らで、500年の歴史を持ち、敷地内には本陣も残っ ている旧家岡田家にほぼ隣接する一角にある。

昭和6年築。油井型で破風造りの入口を有するレトロかつオリジナル度が高い銭湯だ。近づく と、脱衣所傍らのガラス戸が開け放たれていて、大将と常連客の談笑が聞こえてくる。もう、 夏の風情だ。

暖簾上の扁額には「翁湯」とある。周辺の部材、ガラスなど、玄関周りには骨董品屋で値段が 付くレベルのものが、いまだ現役で並んでいる。暖簾を潜ると連子格子の木戸とガラス戸がL 字型に並んでいて、どちらなのか少し戸惑う。風情あふれる格子戸の向こうには、電球の明か りで照らされた小さな庭と非水洗の厠がある。

ガラス度を開けると、番台の横というのは分っているけど、意外にもコンクリではなく、番台 と靴棚に挟まれた、脱衣所の床より少し下がった半間四方の窮屈な板の間だった。この造りに 遭遇するのは初めてだと思う。

入口周りの小さいスペースに、庭、トイレ、エントランススペースと、繊細な造り組み込みが 行われている。一見して贅沢な建物だと判る。

栃木市の風呂銭は300円。料金表は平成5年のものだ。本当は370円らしいけど、栃木の3 軒の銭湯とも、この値段でやっている。

脱衣所の広さは幅2間、奥行2間半ほど。天井は押縁天井。360度、上下左右。深い茶色が 黒に滲んでいくような奥深い味わいがある。恐らく、昭和6年から時間が止まっているといっ ていいだろう。男女境に置かれた蚊取り線香の匂いが、この空間に何とも相応しい臨場感を与 えている。時間を都合してやって来た甲斐が十二分にある。素晴らしい銭湯だ。

浴室は、幅2間、奥行き3間の2段型。天井や壁にはブリキが張られ、全体的に青いペンキで 塗り込められている。

島カランは、正三角形の小さなものが浴室の真ん中にある。そのほかに、センターに4、外壁 側に3。湯道具を置く台の幅が石鹸の幅、5センチほどしかない。この狭さという点ではマイ ベストワン。まぁ、そんな台も無い銭湯もあったけど・・・。

ビジュアルが無いのは残念。しかし、昭和中期な小石タイルがいい味を出している。ペンキ絵 は、よく東京の美大の学生が描かしてほしいとやって来る。しかし、ペンキの種類が合わない のか、すぐダメになるので最近は断っている。

浴槽は、奥壁に接するかたちで深浅2槽。真ん中に蛙が鎮座し湯を吐き出している。仕舞いの 時刻なので、大将と一緒に浸かる。番台から女将さんがほほ笑みながら視線を向けている。な んか、とてもほのぼのしている。現代が殺伐としているとも思わないけど、レトロな空間での、 なんか最大級のもてなしの気がした。

北関東の銭湯は熱いと思い出したけど、湯温がぬるいので尋ねると、埋めた客がいるからで普 段は埋めないと入れないような高い湯温らしい。釜場では80度の湯を沸かし、浴槽とカラン に供給している。カランの湯がかなり熱いと思ったけど、80度とはなかなか高温だ。冬はこ の80度のお湯を使ってラジエーターと業務用換気扇で作った暖房器で銭湯全体を暖めている。 同湯の自動給湯装置も大将が自ら製作している。

トイレをお借りして非水洗なのは久しぶり。そして、陶器製の手洗い器が下げられている。手 洗い器自体がかなり久しぶりの遭遇。先週行った三河島・雲翠泉では5年振りに行ったら無く なっていた。まして、同湯のは陶器製。初めての遭遇かも知れない。

仕舞の時刻が過ぎて、大将は傍らのガラス戸から通路を隔てた母屋へ引き上げていった。急に 強い雨が降り出す。女将は既に仕舞の21:00を回っているのに「夕立ちみたいなものだか ら少し待っていれば」と。相客2人と共にしばし談笑する。小柄だけど、なんとも大らかな感 じがする素敵な方だ。

持参したカメラ2台のうち、メイン機を向いの駐車場に置き忘れたまま入浴してしまった。暗 がりの中なのに、お女将さんが気付いてくれて脱衣所に運び入れてくれた。時ならぬ大雨。機 材へのダメージを救ってくれた。最近、こういった決定的なミスをする。少し凹んだ。

昭和6年築の繊細な造りの地方銭湯の珠玉といっていいだろう。そして、70代半ば過ぎか、 大将と女将さんの人柄が温かく、身体も心も癒される。素晴らしい銭湯だ。

飲料などの販売はない。上がりは、ホテルで聞いた「花木屋」という居酒屋に行く。生ビール、 青森・田酒、地自酒。肴はマグロ刺し、タコ刺し、モツ煮込み、じゅんさいの酢の物。なんか もう1品くらい食べたような・・・。3810円。創業27年になるという。人のいい、なん か話していて楽しいご主人だった。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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