差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年5月17日木曜日 22:12
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: お玉湯(川口市辻)

ナカムラです。

今日(5/12)は、「お玉湯(川口市辻)」に行ってきました。 鳩ヶ谷駅(埼玉高速鉄道)から、1.0キロ、12分くらいです。

今日は、旧鳩ヶ谷宿の入口まで赤羽駅から国際興業バスに乗り、大東浴泉の廃業(建物はそのまま 現存)を確認し、日光例幣使街道(岩槻街道の旧道)の古い建物群を観て、夕暮れ近くにお玉湯へ 向かった。

岩淵宿、川口宿に続く宿場だった鳩ヶ谷宿。最近まで鳩ヶ谷市だったけど、今は川口市に組み込ま れている。昌美浴場(今日も盛業中)もある旧道には、鉄道から離れているため赤羽の岩淵や川口 よりも古い建物が残っていた。

だいぶ日も長くなってきたけど、18:20を回ると夕暮れが近い。5月25日を以て44年の歴史を閉じ るというお玉湯に向かう。

鳩ヶ谷は長らくどこからもアクセスしにくい地域だった。さらに、同湯はどこにも繋がっていない 辻永堀商店会の中にある。スーパーや理髪店は既に廃業。今日は薬屋も菓子店も店を閉じている。 消失しそうな小さな商店街だ。

同湯は、昭和43年創業の簡素なモルタルのファッサードの建物。入口には何故か打ち捨てられた自 販機が残されている。そして、カレンダーの裏に手書きされた廃業の告知がガラスブロックに貼ら れている。「下水道問題や機械の老朽」により店を閉じるようだ。新たに下水道が敷設されるこ とで投資や費用が必要になる。一時、休業したように体力も不安だ。ここらが潮時だろうと思った としても無理はない。

しばらく店の前で写真を撮っていたけど、名ばかりとなった商店街や、同湯の店先とも本当に静か だ。

風にたなびく暖簾を潜れば、左右におしどり錠の下足箱が並ぶエントランス。昭和中期的な空間だ。 手に取った52番の木札は、開業以来44年使われたものだろう。小判型と言っていいほどに角が磨滅している。往時は下足の札が丸くなるほどに客が押し掛けたようだ。

番台への扉を開ければ、前面がカーブしたグレー木目プリントの番台。番台にも廃業の告知が貼ら れている。女将さんが背中を丸めてちょこんと座っている。同湯の開店は17:00と遅い。一番風呂 の混雑を避けようと時間を見計らってやってきたけど、そんな混雑はあったのかと思うほど静か。 相客は無い。低く有線放送のC級演歌が流れているだけ。

脱衣所は、3間四方の空間。天井は周囲は折上げの代わりに小さく2段で刻み、天板は何本か飾り の桟を縦に走らせている。高窓は窓外の目隠しではなく、男湯もカーテンというのが珍しい。壁は 漆喰を模した艶消しの白のペンキ塗り。簡素な作りながら清潔な空間が広がっている。

島ロッカーは中央に縦置きのものが1つと、外壁側と入口方壁にある。いずれもおしどり錠のアル ミ板鍵のもの。その他、保証牛乳の2枚扉の冷蔵庫、旧型マッサージ機、Keihokuのアナログ体重計などがある。

女湯には浴室の側面外にあたる廊下に、ベビーベッドとして使えるであろう長く低いロッカーが置 かれているらしい。そして、左右2つある浴室入口とは別に、そのロッカーの前に通じる第3の細 いドアがあるという。子供の数が多かった頃に建てられた銭湯故の歴史的遺構といっていい。

浴室は、幅3間、奥行4間ほど。天井は十分な高さがあるものの2段型ではなく緩い円弧のカマボ コ型。島カランは1列で、カラン数はセンターから、0(5つのシャワーブースのみ)・5・5・6。床 のタイルは5センチ角くらいで滑り止めの突起で縁どりがあるもの。カラン台は白煉瓦を模したタ イルで、上面には濃紺のタイルが張られている。

しばらくすると相客が入ってきて、小生が座るシャワーの無いカランの下座向かい側に座る。眼前 に置かれたタオルと石鹸を入れた”ポーチ”が実にユニーク。スーパーなどで安売りされるAKAGI の”醤油ラーメン”のパッケージだった。銭湯回りも長くなったけど、袋麺のパッケージを携えた 相客とは初めての遭遇。長らく陸の孤島的に隔絶されてきた奥地。相客はシーラカンス級の珍しさ だと思う。。。

浴槽はシンプルな深浅2層。浅槽は2穴ジェット×2。深槽はバイブラの設備が稼働していなくて淡 い気泡が立ち上るのみ。湯温は何れも42度くらい。鉄分の多い井戸水なので、濾過したものを薪で 沸かしているという。口開けから客数も数人なのだろう。清澄かつ柔らかなお湯だ。

客の出入りも無いので番台の女将さんも午睡中。静かに演歌が流れる以外は本当に静寂な空間。イ ンスタントラーメンの相客とそれぞれに無言で湯浴みを繰り返す。心までもが洗われていくのを感 じる。こんな空間は好きだ。

ビジュアルは奥壁に中島さんの富士山のペンキ絵。男湯にサインは無かったけど、相方によれば 2010.05.02.の絵らしい。下地処理のせいで凸凹が目立つ少し色使いが濃い絵だった。

上がりは久し振りの瓶入コカ・コーラ100円。男湯には見あたらなかったけど女湯には瓶の興信牛 乳があったようだ。そして、帰りにトイレをお借りしたらこれまたかなり久し振りの非水洗トイレ。 今でも深い穴があるのは気味のいいものではない。子供の頃、特に夜は恐怖だったことを思い出した。

土曜日の18:50から19:40に滞在。相客は、上がる頃になってようやく4人ほどになった。表に出 ると肌寒い風が吹いている。同湯以上に静寂な商店街。街灯だけの部分があったり、あたかも幻の ような辻永堀商店街。。。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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