差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2009年3月8日日曜日 13:52
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 栄湯(大田区羽田)

ナカムラです。

今日(3/7)は、「栄湯(大田区羽田)」に行ってきました。 穴守稲荷駅(京浜急行羽田空港線)から、0.2キロ、2分くらいです。

羽田の栄湯が今月で廃業するという情報を頂いた。たまたま、夕方から大田区で用事が合った のでその前に寄ってみる。

まず、玉の湯と入船湯を見ながら羽田の町を歩く。玉の湯は建物に比して大きな唐破風のエン トランスを持つ伝統的木造銭湯。ややバランスを欠いてはいるものの羽田の繁栄を伝える建物 だと思う。入船湯はビル銭だけど、傍らに大正8年の古い煉瓦造りの防波堤が連なっている。 海辺に最も近い銭湯。漁師町だった羽田のイニシエの風景が色濃く残るロケーションだ。

去年11月には、かもめ湯という羽田に相応しい屋号の銭湯が廃業してしまった。遡れば東湯 が・・・。漁師町由来の銭湯密集地帯もだんだんとその面影が薄くなってきた。

さて、栄湯。コンクリ煙突が派手に煙りを吐いている昭和26年創業の伝統的木造銭湯。かつて 玉の湯を訪れた時に同湯の前を通っている。その時に感じたシャビーさは相変わらず。黒瓦が 乗る平入りの脱衣所棟にコミカ調のタイルが貼られた直方体のフロント部が増築されている。 脱衣所棟を見れば、かつてあった破風のエントランスを外した痕跡がうっすらと残っている。

表には廃業を知らせる張り紙などはなかった。松竹錠の下足箱の上には「栄湯」という扁額が 載せられている。フロントに足を踏み入れるとフリーペーパーのラックに廃業の告知が付けら れている。今月29日を以て閉店とするという事実のみが3行ほどの大きな字で記されている。

経営を引継いでから23年になるという。恐らく、その時に大改装を行って、それ以降はそのま まという感じだ。しかし、ブラインドやソファなどがかなり草臥れているのはともかくとして、 本や雑誌がかなり乱雑に積まれていて、埃っぽく、かなり荒れ果てた感じがする・・・。

脱衣所は3間四方。天井、壁ともに白いクロスが煤けてしまっている。夕方に近くなって、で もまだ電気が点けられていないという建物内部では最も暗い時間ということもあって、やや殺 伐とした思いにとわれる。松竹シリンダー錠のロッカーが入口方と外壁側にある。入口方のロ ッカーの扉の多くが開いている。閉めてもまた開くので、あるいは床が傾いているのかも知れ ない。Keihokuのありふれたアナログ体重計の頑健さが頼もしく思えるほど、逆にほかのもの の荒廃が進んでいる。

暗い脱衣所から明るい浴室に入る。幅3間、奥行4間ほどの2段型の立派な浴室だ。ペンキに は多少のくすみはあるものの丁寧に維持されてきたことが判る。

島カランは2列でカラン数はセンターから5・5・5・5・5・0。タイル類は昭和終期に大 改装され古いものはない。壁などは白タイルに黄色とオレンジのラインを走らせるというやや 古めかしい意匠が施されている。

デザインとは恐ろしいものだと思う。時代を経ても強い印象を与えるものと、逆に嫌悪感をお ぼえるものすらある。作った時に一流のデザイナーは、そこまでを予期しながら仕事をしてい るのだろうか。時間とともに時代の感性は動いて行く・・・。

浴槽は奥壁に接するかたちで3槽。外壁側から主浴槽で半分がバイブラ。多少の色つきがあっ て柔らかさを感じる42度程度のお湯。恐らく井戸水ではないか。いいお湯だ。真ん中が7点 座ジェット。センター寄りが薬湯で実母散が入った布袋が入れられている。冬の実母散湯は格 別だ。だけど、実母散湯が久しぶりと思えるほどに、最近はあまり遭遇していないな。銭湯行 脚をサボっているからかなぁ・・・。それとも、使っている銭湯が減っているのかなぁ・・・。

脱衣所とともに浴室にも小さなボリュームで演歌が流れている。一番風呂勢と入れ替わりに入 ったので、ほとんどの時間1人だけだった。そんな中でのこのBGM。羽田や同湯に相応しい 感じがしてなかなか良かった。

同湯は無料の乾式サウナがある。敷物が少しばかりシャビーだけど、無料だからといって手抜 きはない。

ビジュアルは奥壁一杯に樹間に渓流が流れる絵柄のタイル絵。女湯は十二単のかぐや姫のよう だった。

夕方から久が原「昭和のくらし博物館」で開催される「第10回火鉢を囲んでの建築の歴史」 に参加する。今年のトップバッターは建築写真家の増田彰久氏の講演「近代化遺産を歩く」。今 回は土木関係の写真が中心。去年の西洋館とは違って渋いテーマなので参加者は少なかった。

懇親会では、増田氏を囲んで数人で飲むものの、プロの写真家やその筋の人が土木遺構とは係 わりのない無粋な話題ばかり。挙げ句の果てには写真の束を見てくれと言い出す輩もいて、増 田氏も「金とは関係のない話をしようよ」ご立腹。なんか白けたので中座した。

増田氏は大手建設会社の広報部を最後に定年退職されている。サラリーマン時代も社内カメラ マンの傍ら、写真家として活動していたのかと想像していた。しかし、「会社では写真は撮って いない」と仰っていた。尊敬の念が3倍くらいになったかな。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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玉の湯


栄湯


入船湯


昭和のくらしの博物館