差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2015年11月19日木曜日 21:34
宛先: 銭湯ML (sento-freak@freeml.com)
件名: 桜湯(一宮市奥町宮南)

ナカムラです。

今日(5/4)は、「桜湯(一宮市奥町宮南)」に行ってきました。奥町(名古屋鉄道尾西線)から、1.6キロ、20分くらいです。

2日目の名古屋は生憎の雨だった。昨日に続き、アーケードのある大須に行き、「コンパル」で朝食を、「たから」で味噌煮込みうどんの昼飯を取るまで過ごす。

地下鉄で萬歳湯のアクセス駅である浅間町駅まで移動。雨脚が強くなる中、新道町の駄菓子問屋街、円頓寺商店街の東側を経由して、四面道およびそれを含む那古野町の町並みを名古屋駅まで歩く。

そして、今日のメインの尾張一宮へ。昭和レトロな雰囲気が色濃く残るという一宮の街をゆっくり歩きたかったけど、雨の関係でパスし尾西線の終着駅の玉ノ井駅へ向かった。

今は一宮市になっているものの、近年まで木曽川町だった。一帯は毛織物で栄えたらしく、今でもそっちこっちに木造ノコギリ屋根の織物工場が残っている。

玉ノ井駅のホームの傍らもノコギリ屋根の工場。そんな駅を出ると直ぐに「玉ノ井湯」の煙突が見える。同湯と桜湯のどっちに入るかかなり悩んだ。ボロと聞いていたけど、銭湯のエントランス周辺、居宅に通じる小道など手入れは行き届いている。こういった印象はこの町に共通して受ける印象だ。

同湯の向かいに葛利毛織株式会社という大正時代に創業した歴史ある会社があった。木造社屋、下見板張りのノコギリ屋根の工場を維持し、古い織機で素材の良さを引き出すように、ゆっくり丁寧に上質のスーツ地を織りあげているらしい。

文化財級の貴重さと美しさ。玉ノ井湯を訪れた際には、同社の建物を子細に眺める必要がある。すると斜向かいの光川繊維工業という、やはりノコギリ屋根の工場から、ガシャン、ガシャンという織機の盛大な音が響き渡って来た。休日なのに。おそらく古いものだろう、織機の音を聞くのは生まれて初めてだと思う。郷愁へと引き込まれる音だった。

桜湯に向かう途中、やはり一宮市に合併された旧奥町の「奥の湯」に寄る。ストリートビュー(2012年撮影)は、何処となく洋風の趣ある建物が写っている。しかし、訪れると白亜の真新しい平屋の住宅だった。家人に訪ねたら10年ほど前に廃業したという。

気を取り直して意中の桜湯へ。

若宮明神社の参道脇。神社の鳥居と油井型の同湯の煙突とが並ぶ。参道には毛織物会社の風格ある建物。鳥居の傍らには全国で5,400基とも言われる旧型の丸形ポストが立っている。雨の寂しさも加わり、何とも言えない郷愁の風景が広がっていた。

桜湯は、暖簾も無ければ看板もない。入口こそ風呂屋らしく2つ並んでいるものの、平入り2階建のありふれた姿なので、銭湯通であっても気が付かずに通り過ぎるだろう。入ろうとしてもどちらが男湯か分からない。扉に近づき、目を凝らして漸く消えかかったマジックペンによる「男」の文字が判読できる。軒に裸電球が点っている方が女湯と覚えておくといいかも知れない。

大将によれば、築90年近く経つという昭和初期の建物。これを今に引き継ぎ、17:00から19:00までのたった2時間だけ湯を沸かす。2時間の間に、大将とお女将さんは母屋で夕食を済ませ、店に戻っては風呂に入り、仕舞いの掃除に着手する。実際の営業時間は2時間よりも短い。今日も18:00に相方と入った後、男女湯ともに新たな客は無かった。訪れる客は決まっているのだろう。我々が来なければきっと早仕舞いしていただろうと感じた。

入れば、狭いコンクリのたたきの両側に古色蒼然とした木板張りの番台と、温泉マークをあしらった金属肉抜き扉の下足箱がある。相方が女将さんに2人分の風呂銭840円を渡す。それにしても雑然としている。

脱衣所の広さは、幅2間、奥行は半間ずつのたたきと緩衝地帯と合わせて3間ほど。天井扇が回る天井高は2間と十分。天井板はなく、2階を支える頑丈な梁と厚い床材が漆黒の姿で見渡せる。床は樹脂製のゴザ敷き。足触りからすると、厚い材料の板の間だろうか。

漢数字を記したロッカーは、扉を含めてオール木製。錠前が付いているものの、扉には閂錠を操作したと思われる鍵穴も開いている。ロッカー上に置かれた注意書きは何時の時代のものだろう。財布のことを「銭入」と記してある。

その他、旧型マッサージ機、木製ベンチ、小さな液晶テレビなどが置かれている。男女境の鏡には古いスポンサー広告が入っている。

全てが現世と隔絶し、戦前の銭湯はこうだったんだろうなぁと想像させられる、そんな異次元空間がここにある。今となっては自家用風呂の延長でしかないのだろう。埃が厚く沈着するなど、手入れが行き届いていない所も多い。建物は家主とともに歳を取って行くものだ。

浴室の広さは、幅2間、奥行3間ほど。天井は四角錘型で中央に3つの湯気抜きが並んでいる珍しいタイプ。

島カランは無く、カラン数はセンター側に1機、外壁側に6機。いずれも温のみ。中京銭湯の掟のごとく台が洗い湯を流す溝に対してオーバーハングしている。床のタイルは樽型を組み合わせたベージュ色のもの。

浴槽は、奥壁中央から男女境にかけてL字型に3槽並ぶ。手前から主浴槽の深槽、2穴ジェット×2(非稼働)、そして電気の深槽。泡立ちのない浴槽にお湯の清澄さが際立つ。湯温は42度くらい。

壊れているんではないかという位に電気風呂の電圧が高かった。腰からゆっくり当たろうと慎重に後ろ向きで片足を入れたら、強力な電気ショックで突然に足が痙攣、深槽に落っこちそうになった。ひっくり返って湯船に沈んでいたら、生きて浮上出来なかったかも知れない。

雨降りの月曜日の18:00から18:50に滞在。男湯は、小生と入れ替わりで上がった客以外は小生のみ。女湯も相方とご常連ひとりだけだった。大将と女将さんは夕飯らしく、ほとんどの時間、男湯脇の母屋に戻っていた。客は片手有るかどうかだろう。番台に置かれた小さなテレビから、夕方の情報番組が流れるほかはただただ静かだった。我々が帰った後、大将は浴室の清掃を続け、女将さんは表に顔を出して軒の灯りを消した。

上がりの一杯は名駅の旧三越湯の建物をそのまま引継いでいる創作料理の居酒屋「そら豆」。予約の時間が迫ってきたので地元のタクシーを呼んだけど、運転手も桜湯の存在を全く知らなかった。

同湯がある奥町全体を見ても、歩いている人はいなかった。町の静寂な雰囲気を含め、ひたすら静かで、味わい深い銭湯だった。

注:2015/6を以て廃業されました。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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