さくら湯（大崎上島町沖浦）

差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2006年9月16日土曜日 8:39
宛先: 銭湯ＭＬ
件名: さくら湯（大崎上島町沖浦）

ナカムラです。

今日（9/11）は、「さくら湯（大崎上島町沖浦）」に行ってきました。

大崎下島・大長港から、高速船で大崎上島の天満港へ。１５分ほど。
ここには、木江（きのえ）という遊郭跡がある。やはり、大崎下島・御手洗と同様に、オチョロ舟(お女郎船)で栄えた土地。かつて有った、木造の造船技術がなせる技なのだろう、木造３階建の元の妓楼が遺跡のように残っている。中には、木造５階建というとんでもない建物もある。

木江が動けば、大阪北浜の株式相場が動くという、繁栄の時代があったらしい。また、ご高齢のご仁には、中国地方だけでなく、かつて遊びに来たのか、何故か木江を知っている方が多いという。

この辺りは借地のため、高層の妓楼跡は例外なく空家で空き地も目立っている。一部に廃墟化している建物もある。今、昼夜の隔てない、享楽の宴で栄えた面影を感じるのは難しい。しかし、手が入らず、自然体でこれほどの遊郭跡が残っているのは凄い。凄い光景だ。

食料品屋の美人女将が、ご自身の自転車を貸してくれた。この自転車にとって、小生の体重が重過ぎるのだろう、空気が足りなくてペダルが重い。また、僅かな平地以外は、直ぐ坂道になる。あまり、自転車には向かない土地のようだ。自転車を諦めて、５キロ先、銭湯のある隣の集落、沖浦へはタクシーで行くことにする。

因島では携帯のＧＰＳが重宝したけど、大崎上島、大崎下島では、地図に記されていない道に銭湯があるので使えない。同湯も、幅一間もない通りにあるので、使えなかった。この、人間しか通れない道が、島を周回する道路が出来るまで、｢県道｣だったという。

漫然と１６：００開店だろうとやってきたけど、開店は１８：００だという。口をアングリしていると、不憫に見えたようだ。人懐っこそうな女将は、写真撮るならと暖簾をかけてくれた。さらに、脱衣所に招じ入れてくれ、ポカリスェットまで出してくれる。早く到着するのも悪くない。

１８：００になると、一斉に５人の客がやって来る。女湯は４人。パチンコでもやっているのか、一人だけ来ていないらしいけど、これが同湯の全てのユーザーだ。この客が上がり次第、店を仕舞う。だいたい、営業時間は平均で１時間ほどのようだ。

土管煙突の同湯の建物は、先々代からのもので、１００年以上は経っているのではないかと。営業許可証が残っているわけではなく、細かいことは判らないと、ご主人がポツリ。

女湯の上には２階がなく、男湯の上だけに住居部分の２階が載っている。昭和３８年に改装するまで、男湯のある１階部分も、居間や台所だった。
風呂は、現在の女湯のスペースを半分に仕切って、男湯･女湯としてやっていた。ほぼ、現在の半分のスペースでやっていたことになる。男湯と女湯の形状が違うのはそのためだ。天井扇も女湯にしかない。

同湯の料金は３００円。番台は、４０年前に造ったのか、簡素なものだ。下足箱は、鍵のないもの。その上に、金魚が泳ぐ大きな水槽がある。その上に小型テレビ。

現在の脱衣所は、幅２間四方。天井は２階が載っているので、２本の太い梁が走る。ロッカーは、男女境にあり、錠は見たこともない鶴の絵を彫ったもの。脱衣かごはプラスチック製。その他、飲料用の家庭用冷蔵庫。はじめは何か判らなかった組み立て敷きのサウナ、「ヤマト自動マッサージ機｣という旧式マッサージ機がある。マッサージ機は、４０数年前、２台で５０万円もしたという。同湯にとっては、現在の年間収入に匹敵する値段だ･･･。

昔の浴室は石敷きで、浴槽も小判型の物が男女湯の真中にあった。湯船は底の方で繋がっているので、女湯の客に悪戯する輩もいたらしい。島に本州からの水道が引かれる昭和５７年まで、内風呂のある家は例外的で、集落のほとんどの住民が入りにきた。営業時間も１４：００から２３：００。仕舞いの頃は、湯は黒くなり、掬えるほどの湯垢が堆積した。

現在の浴室は、幅２間、奥行３間。天井は平面のプラ板張り。奥に湯気抜きがある。２階の押入れの脇を通すという技を使っている。

浴室の真中に、奥壁に接するかたちで浴槽が設置されている。温度は４４度強と熱めだ。豊島温泉もそうだったけど、客は熱い湯に短時間入って、直ぐ上がっていく。５分じゃきかないけど、１０分は居ない感じだ。これが、島の流儀のようだ。

カランは、家庭用の冷温のタイプのものが、外壁側に３、男女境側に２ある。男女境には、温が撤去された冷のみの宝印のカランが３つある。

上がると、番台は女将に変っていた。尾道の方で、誰かに似ているのか、まさか過去にどこかで会っているとは思えないけど、既視感がある。

１９：００には、男湯の客も女湯の客も帰った。
人懐っこい女将は、｢また来てくださいね｣と。ご主人が女将に向かって、｢その頃はもう無いよ｣と。二人は明るく笑っていたけど、小生は苦笑いするのが、精一杯だ。

遠かったり、時間を間違えたりで、入るのにとてもハードルが高かった銭湯。しかし、相客にも島のことをあれこれと伺うことができたし、何か、とてもいい銭湯だった。

帰りは、民宿まで道をとぼとぼと歩く。真っ暗だ。山側は何かに躓きそうで怖いし、さりとて海には落ちたくない。耳をそばだてながら、車道の真中を歩いて行った。

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ナカムラ　（Masayuki Nakamura）
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URL: http://www7a.biglobe.ne.jp/~masayuki/ （風呂屋の煙突）
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沖浦の石組のＵ字型の古い船溜まり。道路拡幅のために、埋め立てられる計画という。	初めて遭遇するロッカー錠。	雑貨店部分は廃業
一昨年に８２歳のおじいさんが亡くなるまで、理髪店だった。基礎無し(少し傾いている)。水道なしで、ジョーロで客の頭を洗ったけど、主人の人柄で人々が集ったという。	かつての｢県道｣