差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2008年11月5日水曜日 22:07
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 鶴巻の湯(長野県小諸市鶴巻町)

ナカムラです。

今日(11/1)は、「鶴巻の湯(長野県小諸市鶴巻町)」に行ってきました。 小諸駅(しなの鉄道線)から、0.9キロ、10分くらいです。

ふらっと小諸と上田に出かけて、遊廓・赤線跡を探索。その後に銭湯に行くことに・・・。今 日から3連休なので、空席は東京発6:24の朝1番の新幹線しかなかった。佐久平駅で小海 線に乗り換え、8:05には小諸駅に到着する。軽井沢と同じくらいの気温らしい。予想して いたよりも寒く、手袋をしている人も多い。

昭和の初めに出された「全国遊廓案内」と「日本遊里史-日本全国遊廓一覧」には小諸の遊廓に関する記述はない。そして、長野県で11ヵ所指定されていた貸座敷免許地(遊廓)に小諸は入っていない。小規模の遊廓か、戦後の赤線しか無かったのか・・・。俄か調査では場所が特定できていなかった。

今日は終日小諸に滞在。いつもの遠征と違って時間的に余裕がある。先ずは小さな小さな市立 図書館で文献にあたる。司書の女性に目的を告げるとかなり細かい文献まで出してくれた。推定大正5年から7年とされる古地図が有意義だった。

島崎藤村が住んだ「馬場裏」や「六供(ろっく)」、「鶴巻」、「赤坂」が遊所跡だと分かる。それ ぞれ回ってみると、所謂遊廓的な建物は少なかったけど、後の赤線時代の建物とその雰囲気は かなり濃厚に残っていた。

古地図等で確認した銭湯跡も、「天王鉱泉(建物有、数年前に廃業)」、「大手湯」、「花の湯(六 供の遊廓の湯)」、「赤坂鉱泉」、「小松湯(建物有、10数年前に廃業)」と見て回る。

さて、「鶴巻の湯」。由緒ある老舗にして、小諸市最後の1軒だ。

同湯は、見番(日進舎見番)を有し娼妓も抱えた花柳界鶴巻の銭湯だった。近くには「ユート ピアナイトタウンキネマ」という飲み屋ビルに変わっているけど、そこに映画館などもあった 歓楽の地域だった。しかし、現在ここに往時の姿を想像するのは困難だ。

同湯創業者の小宮山荘助氏は、「小宮山鍛冶鉄工所」を起こし製粉機械などで成功した町の大立 者。大正2年に同氏が45歳の時、地域貢献の意味もあって「鶴巻鉱泉」を開設している。大正初期、電話を引く商店が少数だった頃、既に同湯では電話を引いていた。同湯の向いの駐車 場敷地がその鉄工所の跡地。柵で囲われた大きな顕彰碑が建っていて、恐らく多少の誇張を含 んで、その業績が記されている。

同湯の建物は黒瓦平入りの2階家。それに入母屋の屋根だけという簡素なエントランスが付け られている。黒瓦の上は苔蒸し草も生えている。雑草というのはあるけど、苔が広がっている というのは珍しい。一部解体されて駐車場になっているけど、それでもかなり間口のある大き な建物だ。入口脇の廃業したタバコ屋部分などと合わせ趣き深い。

入口を開ければコンクリのタタキに番台。この銭湯をお一人で切り盛りしているという美人女 将に風呂銭を渡す。小諸の銭湯料金は380円。

脱衣所の広さは幅2間、奥行2間半ほど。2階が載っているので天井高さは高くはない。天板 はなく直接天井になっている。大正2年からのオリジナルな部分だろう。深く沈んだ茶色に染 まっている。

ロッカーは外壁側に筆記体で「fuji」とある珍しいもの。筆記体の富士錠は記憶に有るよ うな無いような・・・。ただ、主力は脱衣籠。丸い籐編みのもので、内径が少し小さい感じが する。

その他、男女境に2つ掛かっている黒い額縁に入った古い鏡、Yamatoの古いアナログ体 重計、旧型マッサージ機。磁器の火鉢が脱衣所の真ん中に置かれているのも寒い地方ならでは だ。

浴室は、幅2間、奥行3間ほど。天井は四角錘型で真ん中に長方形の湯気抜きがある。ブルー のトタン板が張られているけど、大きな赤錆びの縞模様が出来ている。

中央に島カランがあるけど、カランは撤去されている。カラン数は外壁側に6、メインの男女 境には4機のみ。取っ手の金属に「水」という彫り込みがある古いカランも6つほど残ってい る。

男女境にある絵付けのタイル絵は幅だけでなく縦にも長い。そのためにシャワーだけでなく鏡 すらない。絵柄は掉で舟をあやつる川の図で、奥に緑の山。その上には城が描かれている。筆 記体でサインが入っていたもののよく読みとれなかった。男女境のタイル絵としてはその大き さで出色のもの。和風の絵柄もなかなかいい感じだ。

奥壁には釜場に繋がっているのか小さな穴開きがあるのでビジュアルはない。そういうことも あって独特の景観の浴室だ。

浴槽は奥壁に深浅2槽。小宮山氏から同湯の経営を引き継いで三代。孫娘にあたる女将は同湯 がかつて鉱泉だったことを知らなかった。現在は水道水を、薪があれば薪で、無い時には灯油 で沸かしている。

温度計の出た目のマイナス4度が実際の温度と言うけど、とても44度はない。相客も今日はぬ るいといっていた。湯温42度くらいか。客が少ないということもあるのだろうけど、湯はあ くまでも清澄だ。

土曜日の夕方、17:20から18:40に滞在。やや長居をしたけど相客は2人だけだった。一人 は小諸の古い時代に精通した方で「パリー湯」や「寿湯」があったことを教えてくれた。もう ひと方は、上田の方で「柳の湯」や「竹の湯」のご常連の方だった。

飲料販売もあるけど、ビールが飲みたい気分だったので、同湯の直ぐ並びにある中華屋「大連」 に入る。ここには相客は無かった。ひと息ついて今度は本町に出て「火付盗賊」という居酒屋 に入って串焼きと地酒・浅間嶽を頂いた。

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入口に懸かる立派な扁額


推定大正5年〜7年の地図(市立小諸図書館)


小宮山鉄工所の跡地に小宮山翁の顕彰碑が建っている。