差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2008年6月22日日曜日 15:32
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 梅の湯(館林市仲町)


ナカムラです。

今日(6/20)は、梅の湯(館林市仲町)に行ってきました。館林駅(東武伊勢崎線)から、0.3 キロ、3分くらいです。

18:00に会社を出て、北千住駅18:57発の特急・りょうもう号に乗る。1カ月ほど前もこ の電車で館林に行った。最近は北関東のレトロ銭湯とあまり情報がない遊廓および赤線跡をセ ットで回っている。

先月、館林に訪れた時には「松の湯」に入った。その際、臨時休業だったレトロな「梅の湯」 が気になって仕方ない。同湯向いの居酒屋の居心地も良かった。

今日は飲んだくれて、明日は「全国遊廓案内(昭和5年)」に記述のある福居遊廓跡(足利市福 居栄町)や、足利市・雪輪町遊廓跡および永楽町赤線跡、太田市・浜町赤線跡。そして、大間々 の千代の湯、高砂の湯、赤線跡(未確認だけど、きっと有ったはず)を回る予定。

銭湯も、遊廓・赤線跡の巡礼行も、だんだんと「けもの道」の領域に入ってきた感じがする。

銭湯は、営業していれば、あまり場所が特定出来ないとうことはないけど、遊廓跡や赤線跡は 少なくとも50年前に営業を終えている。例えば、福居遊廓は昭和5年の「全国遊廓案内」で 「福居駅の北三丁」といった漠然とした記述しかない。はたして、戦後は営業したのかの覚束 もない。数が多かった赤線跡はさらに情報が少ない・・・。

最近は訪れて何もなくてもいいと思っている。そういた跡には、抜き差しならない女の情念が 宿っているはずだから。建物などなくても、そこには恐ろしいことだけど、消せない土地の記 憶がある。その雰囲気を写真で掬いたい。今の自分にそこまでの力量があるかは分らないけど、 時間との戦いというのもある。

おっと、「梅の湯」だった・・・。

昭和初年築の伝統的木造銭湯。昭和17年に商社勤めだった先代が買受けて経営を引継いだ。 隣には隣家のものだけど屋敷稲荷がある。なんとも趣ある銭湯だ。

エントランス部分は、かつては黒瓦の入母屋屋根だったけど、瓦屋根に草が生えて破損した。 現在は簡素な板屋根が渡してあるだけになっている。エントランス部分に入ると、入口は東京 銭湯のように男女に別れていて、その傍らにそれぞれ旧型おしどり錠の下足箱がある。番台裏 の窓にレースが掛けられている。恐らくは女将のお手製だろう。

鍵がなかなか掛からなくて手間取っていると、開け放たれた戸の向こうから、女将の声が掛る。 常連さんだけだから、そのままでいいわよと。

番台は地方銭湯の低いままのもの。そこに細身の女将が長い足を折り曲げて座っている。館林 の銭湯料金は330円。本来は370円だけど、平成5年からこの料金が据え置いている。そ のあたりは100メートルと離れていない松の湯と同じだ。

脱衣所は幅2間奥行は3間ほど。天井は簡素ながら平格天井になっている。同湯の特徴は、上 部窓や脱衣場と浴槽を仕切る部分に、稲妻の意匠を施した菱形が用いられていることだ。前後 左右にものこのデザインがある。使われているガラスは今や骨董品になっている大正期の模様 ガラス。古色蒼然としたこの脱衣所空間に、それらが溶け込んでいる。惚れぼれする銭湯だ。

ロッカーは、外壁側にオール木製ロッカーがあるけど、扉が全て外されてご常連の湯道具置き 場となっている。主力は丸い籐編みの脱衣籠だ。

その他、アナログ体重計、新型のマッサージ機、家庭用サウナなどがある。このサウナは、家 庭用サウナが一般家庭に普及する昭和50年代初めの頃、飛び込みの営業マンから買ったもの。 女将は少し高く買ったかなと悔いるご様子だった。

浴室は、幅2間強、奥行き3間ほど。天井は2段型だけど、入口の屋根と同様に作りかえられ ている。W型鋼板が使われている。なんか工場にいるような感覚。まぁ、上を見なければ、浴 室も、見渡せる脱衣所も、レトロ極まりない光景が広がっているせいもあって、やや落差があ る。

島カランは1列。島カランにまでシャワーがあるのが意外。外壁側にはカランはない。浴槽は 深浅2層でジェットがあるのみ。2槽の真ん中の岩の割れ目から湯が流されている。湯温は 44.5度といった所か。やはり北関東仕様。

「梅のお風呂がいい」と言って、おばあちゃんに連れられた学齢前の女の子は入れたのかなと、 思った。

同湯のタイル使いは古風だ。洗い湯を流す溝すらない。床もカラン台も基本的に白を基調とし ている。

レトロ銭湯の重要な部材に亀甲型で平滑な白タイルというのがあるけど、同湯もまさにそれが 使われている。今まで見たものより1回り小型のもの。初めての遭遇。そして、床の周辺部が 2センチ角の深緑色と白色タイルの市松模様になっている。シンプルだけど、白基調のタイル 使いに絶妙なアクセントになっている。

浴槽の内部は2センチ角のタイルが使われている。そして、何色もの色使い。それぞれが渋い 色調で何ともいい感じでイニシエ度を増している。とてもいい感じ。

男女境の構造が少し変わっている。中央部が逆台形型にくり抜かれていて2枚のすりガラスが 張られ、その中に蛍光灯が仕込んである。こんな構造は初めてだ。

ビジュアルは、浴槽の立ち上がりに九谷鈴榮堂のクレジットとともに「章仙」とあるのタイル 絵。柳木の下の池に六匹の鯉と金魚、アヒルが泳いでいる図。なかなかの気品を感じるタイル 絵だ。さらに、男女境には4枚構成のタイル絵が2図。帆かけ船が走る図と河口に橋と舟が描 かれたもの。こちらには「九谷」とあるのみ。

奥壁には白く塗りつぶされた「額」のようなスペースがある。昭和40年代くらいまでは広告 掲載と引き換えに無料でペンキ絵が描かれた。当地でそういったシステムが無くなって以降、 塗りつぶされたままになっている。

上がりは女将にオレンジジュースをごちそうになる。ご常連には未だ告知していないと笑って いたけど、今月もまた連休。6/27から30までの日程で、中国で働く息子さんの招きで出かけ るらしい。中国人スタッフをもてなすためにと番台でせっせと鶴を折る、息子思いの母だ。

金曜日の21:30から仕舞の22:00まで滞在。相客は7、8人と多い。うち3人が先月、 同湯が臨時休業とのことで「松の湯」でも相客だった方。驚かれ、呆れられ、馬鹿にされなが らも歓迎してくれた。

22:00に仕舞うとご主人がパンツ一丁で浴室の清掃を始めた。居酒屋で聞いた話では、校 長先生までも務められた数学の先生らしい。子供は自由を方針に育てた。それは成功したのだ ろう。それぞれに海外や医師として活躍されている。ごあいさつ程にしか言葉は交わさなかっ たけど、飄々とした中に、オーラを感じさせる方だった。パンツ一丁でデッキブラシを持って いる姿であっても。

表戸まで女将が送ってくれた。「これから私たちもお風呂入って・・・。」その言葉が印象的だ った。仕舞を終えて、夫婦で「銭湯」に浸かる。どんな感覚なのかな。

上がりは向いの「ますふく」。創業38年にもなる館林で十指に入る老舗居酒屋だ。結構客が入 っている。カウンターで品のいい年配のご婦人と、30代半ばくらいのかなりの美人と、遊廓 話で盛り上がる。おしゃれな美人は、舞踊で八百屋お七を舞った経験があるとのことで、遊里の 世界に興味がある方だった。

そして、24:00のカンバン。悔しくもおばさんの方が、彼女をお持 ち帰り。それにしても、おばさんは何者だったんだろう。不思議と館林、足利周辺の色町に詳 しい方で、教えられることが多かった。

モルツ(中)、〆張鶴、お通し2品、マグロ刺し、揚げ出汁豆腐、野菜サラダで3150円。なか なかいい店だ。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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