差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2015年4月5日日曜日 0:31
宛先: 銭湯ML (sento-freak@freeml.com)
件名: 山下館(横浜市中区新山下町)

ナカムラです。

今日(11/8)は、「山下館(横浜市中区新山下町)」に行ってきました。元町中華街駅(横浜高速鉄道みなとみらい線)から、0.7キロ、8分くらいです。

赤レンガ倉庫の「横浜今昔きもの大市」に行ったら旧車のイベントが開かれていて、150台もの懐かしい車が集結していて楽しかった。

小学生の頃、空前のスーパーカーブームだった。その頃知った、トヨタ2000GT、ロータス・ヨーロッパなども揃っている。実家にあったてんとう虫のようなスバル360が懐かしかった。アルバムの写真によれば、小生はスバル360で広尾の産院から実家に運ばれてきたようだ。

着物市の後は、気になっていた「原鉄道模型博物館」へ。精巧な鉄道模型を見ては感嘆し、さらに走る姿を見て、音を聞いて再び感嘆させられる。原氏は子供の頃から”つけ”で模型を買うことを許され、時に時の総理大臣の月給を上回る高価な模型を買ったこともあったという。そんな氏のこだわりが博物館に詰まっていた。

秋が深まり日が暮れるのが早くなった。元町中華街を散歩しながら、久し振りの山下館に向かう。バンドホテルはドンキホーテに替わり戦災を逃れた商店街も大半が普通の住宅に建て替わっている。

旧横浜市は震源に近く、関東大震災では致死率9%という甚大な被害が出た。その震災瓦礫による埋め立てで「山下公園」や「新山下町」が誕生した。同湯近くに大正時代創業の「バンド(海岸)ホテル」があったことも元々海岸だったことを示している。

「港が見える丘公園」の崖下は元々は海。その崖下の新山下町に出来たのが「新山下商栄会」や同潤会の復興木造住宅群280戸。貯木場や製材所などもあった。しかし、商店会は2012年3月解散し、戦後払い下げられた旧同潤会の木造長屋群は2005年に横浜市による”不良住宅密集地区の改良事業”として市営団地として再開発がなされている。

同湯はそんな成り立ちの旧新山下商栄会の盟主と想像される位置にある。ハマの老舗銭湯の証「館」という屋号を持つ同湯は、おそらく新山下町の造成および同潤会の復興住宅とともに大正時代の末に創業したと考えるのが自然だろう。そしてこの辺りは戦災に遭っていない。

同湯は、昭和30年に短めのコンクリ煙突を持つ現在の建物に改築された。さらに、15年ほど前、男湯側を駐車場とするために減築され、加えて前栽が潰されるなどファッサードも大きく改変されている。そんなこんなで素っ気ない風貌に成り下がったものの、店内は折上げ格天井を有する伝統的なレトロ銭湯そのものだ。

暖簾を潜ると、番台裏には章仙画の「鯉の滝昇り」のタイル絵。浴室の奥壁には、東白楽・記念館湯、磯子八幡橋・幾久の湯が無き今、恐らくイニシエのタイル絵としては横浜最大だろう、山水画を得意としたという「彩陶園 胡山」の落款がある横浜三渓園とも見られる大きなタイル絵(縦10枚×横27枚)が広がる。

かなり久し振りの再訪。先日、相方に横浜銭湯のナンバーワンのタイル絵を見せようと藤棚・太平館に連れて行ったものの、女湯側の男女境には何とタイル絵そのものがなかった。男湯には小生が横浜随一と考えている「観音崎燈台を含む三浦の大海原」という感じのタイル絵があるのと大きな格差がある。

太平館の次なるタイル絵は、やはり山下館だろうとやって来た。10年振りの番台のおばちゃんは、痩せて腰も曲がって小さく見えた。開店から23:00の閉店まで1人で釜場と番台を往復するには可哀想な印象すら受ける。そして、浴室の入口まで来ると、何と10日余り先、今月20日に廃業するという告知が張ってあった。”呼ばれた”と感じた。

1日15人余りの客のために7時間も店を開けている。製材所との繋がりから受け入れた木っ端を燃しているものの既に20年も前から赤字を出しながらやっている。帰り際まで相客は無かった。営業時間中に女湯のタイル絵を撮影させて頂いたのも10年前と同じ。1人で温い湯船に浸かりながら、別に生業が有ってのボランティアとは違う、銭湯って何なんだろうと思いを巡らせた。60年間があっという間だったというおばちゃんの呟きがずっしりと来た。

上がってから入口のタイル絵を撮影しようと傘立てを大移動させると、おばちゃんが絵を磨いてくれた。番台で感じたよりもずっと腰が曲がっていた。そして、鯉の滝昇りの絵を撮っている間に、暖簾を潜るご常連達がそれぞれに同湯への思いを話してくれた。何とも客層がいい。少数だけど、これらのご常連があってこそここまで来たんだなと思った。

だいぶ過ぎてしまった潮時が、でも、同潤会住宅や商店街よりも後に、ようやくやって来た。

《前回訪問:2004.12.30.》


※2014.11.20.の営業を以て廃業。

【ご参考】「まちなみ図譜・文献逍遙(PDF9ページ)」 同潤会の木造普通住宅団地

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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                            女湯。絵には「彩陶園 胡山」の銘がある。




                            男湯。減築で建物の左側が削られている。










同湯の名前も入った手ぬぐいで作った暖簾。これをデザインしたという方が、名残りの湯に訪れていた。




















浴室の入口まで来ると、何と10日余り先、今月20日に廃業するという告知が張ってあった。




                   横浜赤レンガ倉庫の前で旧車のイベントが行われていた。




                      トヨタ2000GT。時代を経てもなお美しいと感じるデザインだと思う。




    小生が生まれた頃に家にあったらしい車。これで産院から家に”帰宅”した。





                      横浜中華街





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