差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2017年1月12日木曜日 21:54
宛先: 銭湯ML (sento-freak@freeml.com)
件名: 大徳湯(福岡市博多区千代町)

ナカムラです。

今日(3/1)は、「大徳湯(福岡市博多区千代町)」に行ってきました。千代県庁口(市営地下鉄箱崎線)から、0.5キロ、5分くらいです。

まずは、千代町の町を歩いて東湯へ。途中に巨大要塞のような半ば過疎化した福祉系の集合住宅や部落解放同盟の支部建物があったりする。広い道なのに歩いている人がほとんどいない、白っぽい不思議な光景が広がっている。そんな風景の中にある東湯では煙突の調子がおかしいのか、工務店の人が屋根に上がって仔細に煙突と屋根の隙間をチェックしていた。

次ぎは、吉塚駅の東側の旧若櫻湯。木造の古い吉崎マーケットの入口脇にある。銭湯を巡り始めた頃に訪れたことがある気になる銭湯だったけど定休日だった。

繁盛銭湯だったようだけど、2005年の福岡県西方沖地震で設備が駄目になり廃業した。偶然に遭遇したバラック建築の赤坂門市場もやはり同じ地震で傾き、10年にも及ぶ地権者と店子との交渉が整って、今秋にも解体されるという。

それにしても若櫻湯は何か理由があるんだろうなぁ。看板、珍しい円筒形の赤煉瓦積みの煙突や、表通りのビル側面に貼られたカラーの広告など、10年を経過したのに全てが営業当時のまま。余りに不自然な感じがする。

次は大黒湯。住宅地にひっそりとある、ほどほどの間口の福岡的な銭湯だった。台風で煉瓦煙突が倒れた千代三丁目の大東湯はそのまま廃業。釜場など後方部に赤煉瓦を多用した祇園の大春湯も昨年廃業してしまった。福岡の銭湯は、ひっそりと、でも急速に数を減らしている。小銭湯が気になる小生としては、大黒湯は気になる存在だけど、入る機会を作ることが出来るかな。

さて、今日の目的の大徳湯へ。地図を見た時に不思議なロケーションに眼を奪われた。同湯は福岡藩主黒田家菩提寺の崇福寺と、九州大学医学部に挟まれた、不自然に狭く細長い形状をした住宅地にある。

訪れると、寺領らしい同湯の周りは7割方廃屋で、家が無くなったとおぼしき所は駐車場になっている。空家が多いのは、地主である寺側が、再建は勿論、大規模な改修も許可していないのだろう。激しく傾いた家に灯りが点いていたりもするけど、住むに耐えない人は去って行くしかない。

昭和19年という戦時下の異常な時期に開発されたらしい。そんなことも関係があるのかも知れない。街灯の広告が近くの千鳥橋病院ばかりなのも多少のいわくを感じる。

同湯はこの地に昭和21年に創業。先代がそれを譲り受け、昭和33年に改築している。端正に刈り込まれた掛かり松。人造石洗い出しを多用した簡素にしてレトロなファッサード。対峙すれば気品を感じる銭湯だ。

半ば廃墟が連なる路地を散歩したり、夕方の刻々と変化する光線を選ぶためだけど、長々と風呂屋の前で写真撮影したりするので、近所のお節介おばちゃんに同湯に”通報”される。

話が複雑になると面倒なので、小生もお節介おばちゃんに続き同湯に飛び込む。最近は銭湯マニアが認知されたのか、何らの詰問もなく、女将さんの人柄もあって愛想良く受け入れてくれた。

ドアを入ると畳1畳ほどのコンクリのたたきと番台。反対側にはSSLOCK錠のような小さなアルミ板鍵の錠がついた下足箱。女将さんの手作りだろうか、それぞれの鍵に玉飾りが付いている。

脱衣所の広さは、幅2間半、たたきの部分を含めて奥行3間ほど。天井高は2間弱。天井は木板にペンキ塗り。その周囲に正方形のパネルが張られている。

ロッカーは外壁側にのみオール木製ロッカー。扉には1から21番までの算用数字が並ぶ。錠は下足箱と同様の小さな錠が付けられている。丸籠も現役で使われている。

床は張り替えられている一方、男女境は上部にザラザラとした意匠の硝子が使われた古風なもの。横長の古い冷蔵庫に2台のマッサージ機。九州計器というアナログ体重計に初めて遭遇する。

浴室入口の注意書きには「混浴は十二歳迄」「洗粉、石けん、糠等での洗濯禁止」等々が記されている。石けん以外の洗浄剤や米糠での洗濯は、田舎の山形での曖昧な記憶があるのみ。全国的に見ても12歳までの混浴というのは、最も遅いのではないか。もっとも、今適用されている注意書きではないと思うけど。

浴室の広さは、幅2間半、奥行3間、天井高は2間ほどのフラットなプラ板張り。壁も腰高より上はプラ板が使われている。清潔ではあるもののイニシエの風景からは少し遠い。

カラン数は外壁側に7あるいは8機。押せば勢い良く熱湯がほとばしる。確実に番茶が淹れられるほどの熱さだ。

床のタイルはグレーの厚手中判のもの。洗い湯が流れ込む溝が外壁側のカランに向かって背中側、後方の男女境に接する浴槽との間に通されている。荒戸湯もそうだけど、他の地域ではあまり見ない溝の通し方だ。

浴槽は、中央、男女境に接するように正方形の深い主浴槽と、手前に小振りで本当に浅い槽と電気風呂の計3つ。深槽は湯温42度くらい。浅槽は41度強と温めだった。以前は金気の強い井戸水を沸かしていたものの、今は水道水を沸かしている。表からは煙突を確認できなかったので、ひょっとしたらガスで沸かしているのかも知れない。

ビジュアルはなく、浅槽と電気風呂の焚出し口に陶製の獅子の吐湯口が付けられているにとどまる。

夕食前なので入れ替わりで相客が絶えない。熱湯のカランを操作するためか、広くはない浴室に湯気が充満する。マイナスイオンというのか分からないけど、この適度の湿度の中で深く息をするのは気持ちがいい。

男湯だけに置かれている冷蔵庫で2本の瓶牛乳を買って、1本は番台の女将さんを通じて相方に手渡してもらう。男湯にだけ入っていると分らないけど、飲料の冷蔵庫は男湯だけという銭湯が、地方に行くと少なくない。

火曜日の18:20から19:10に滞在。相客は10人くらい。脱衣所も浴室も人が途切れることがない。少しダミ声の女将さんも銭湯の女将さんのイメージとぴったりとしていて、どっしりと安定感がある。大徳湯の、いい雰囲気の大きな部分を担っている。

上がりの一杯は、天神の「角屋」という角打ち。以前、相方の友人にいざなわれ、昼から酒盛りし、その後箱崎の大学湯(廃業)に向かった楽しい思い出がある。何度も何度も自販機で追加の食券を買っては、都度カウンターに並ぶのはちょっと手間だけど、まぁ角打ちで夕御飯よろしく食券10数枚も買うのは粋じゃないので仕方がないか。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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                          九州大学医学部の古いコンクリート塀

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