差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2008年7月6日日曜日 21:14
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 花乃湯(足利市巴町)

ナカムラです。

今日(7/4)は、「花乃湯(足利市巴町)」に行ってきました。 足利市駅(東武伊勢崎線)から、1.2キロ、15分くらいです。

2ちゃんねるの掲示板に、18:30に大手町・丸の内地区で大量殺人を予告する書込みがあ る。予告時刻の5分ほど前に会社を出ようとすると、後輩から「やっぱり、ナカムラさんだっ たんですか」との冗談とともに送り出される。

大手町駅までの道すがらは、緊張した面持ちで警戒する警官や、パトロールする警察車両が、 サミット前だからというのではなく、異様に多く、動き回っていた。

北千住のマックでハンバーガーを齧って、赤城行の特急・りょうもう39号に乗り込む。この ところ1週おきに北関東を巡っている。これはという部分に集中的に取り組みたいと考えるの は、性分なのかも知れない。いろんなことに「また」はない。悔いが残らないように、気にな る時に、取っ掛かりは付けておかなければと考えている。

北千住駅から東武の足利市駅は1時間ほど。しかし、足利の市街地は、渡良瀬川を間に挟んだ 対岸にある。同湯は、森高千里が歌った渡良瀬橋を渡って、巴町・雪輪町という艶っぽい名を 持つ地に有る。ここは、『日本遊里史/日本遊廓一覧(昭和4年)』や『全国遊廓案内(昭和5年)』 には出て来ないけど、色町の機能をも併せ持つ花街だった。現在でもその雰囲気が濃厚に感じ られる。屋号に「花」を冠しているのも、もちろんそれを意識してのことに違いない。

花街には優れた銭湯が多い。地方銭湯にしては本当に堂々とした立派な構えだ。千鳥破風の脱 衣所棟。後方に2段型天井の浴室棟が連なる。煙突は油井型の大型のもの。エントランス部は、 モルタルの古風な感じの直方体。入母屋の屋根ではないものの、丸い軒灯の下で屋号を染め抜 いた臙脂のオリジナル暖簾が揺れる様は、何とも粋で、花街の露払いを務めるに十二分な貫禄 がある。

繊維産業が栄え花街が賑わっていた頃は、昼の12時から深夜1時までの営業だった。現在で も開店は1時半と早い。でも仕舞は22時だ。女将さんは「昔は、本当に賑やかったんですよ」 と何度も繰り返す。昭和28年改築。建てられてから55年が経つ。

エントランススペースの下足箱の錠はおしどり。番台裏はモザイクタイルと自然木を生かした 組み合わせになっている。ガラス戸を開けるといい感じの番台がある。檜材、上部に飾り細工 があって、左右の衝立には雲形の彫刻が施してある。どちらかといえば女性的なデザイン。繊 細かつ風格を感じさせる番台だ。

女将さんは女湯にいるようだ。声をかけて350円を払う。小柄な可愛らしい感じの女将さん。 同湯の来歴を伺うと、ボロだし、勤め人の息子にも薪運びで負担を掛けているし、はにかみな がらいつ止めようかという話になる。確かに古いけど、ボロではない。立派な銭湯建築だ。

脱衣所は、幅3間、奥行き3間半ほどと大型。折り上げ部が漆喰で固められている格天井。窓 や戸は開け放たれて、天井扇が回っている。客同士はみな挨拶を交わす間柄。夏本番かなとい う、今日の暑さが話題になっている。

島ロッカーはなく丸い脱衣籠が主力。ロッカーは外壁側に松竹板鍵のロッカー。男女境にレア なタイヨー錠のロッカーがある。「Taiyo/タイヨー錠(赤で女湯用)」と「Taiyo/TOKYO」という 2種類がある。ばく然とタイヨー錠は関西系かなと思っていたけど、出自は東京のようだ。

東京の棟梁が建てたということで、どこまでも東京銭湯だ。ただ、外壁側に床の間のようなス ペースがあって、料亭のように丸窓が穿ってある。男湯と女湯を隔てる扉には遊廓や赤線で良 く見ることができるひし形の窓も有る。これらは、花街という、この土地を理解した棟梁の計 らいだろう。繊細な番台にマッチした小気味が効いている。

浴室は、幅3間、奥行き3間半で天井は2段型。どことなく天井が高い感じがする。足利にし てあくまで東京型銭湯。そして、素晴らしい銭湯の原風景が広がっている。

島カランは、カランが計6つだけの小さなものが1つ。洗い湯を流す溝すらない古風な設計。 床のタイルは、恐らく創業当時からの亀甲型の白タイル。立ちすくむほどの郷愁の世界だ。

浴槽は深浅2槽。77歳になる相客は、子供の頃、「大人風呂」と「子供風呂」と呼んでいたと 教えてくれた。温度は42度強と42度フラットと若干の温度差がある。両浴槽の間の岩で設 えた焚出し口から湯が供されている。薪で沸かした清澄で肌ざわりのいいお湯。「大人風呂」に は、別に獅子口の焚出し口が別にあるけど、稼働はしていない。

ビジュアルも手抜きがない。多少のくすみが目立つけど、奥壁には「大沼公園」のペンキ絵。 羊蹄山をバックにして湖に遊覧船が走る。「大沼公園」という文字が早川師的ではないけど、絵 のタッチは早川師だ。女将さんの話では、東京の絵師が2年ほど前に描いたものという。

さらに、男女境には幅3間半と大きな章仙画のタイル絵。松島なのかな、風光明媚な島嶼に、 橋、潮見楼など多彩なモチーフが精密に描かれている。なかなか気合いが入った章仙画のタイ ル絵だ。

金曜日の21:00から仕舞の22:00まで滞在。相客は5人ほど。女湯が子供の声で賑やかだと 思ったら、男湯にいた相客の祖父を含め、祖父母、娘2人、孫2名という3世代6人でやって 来ている方々だった。2歳と3歳の女の子が男湯の脱衣所を駆け回っている。なんか懐かしい 光景に出合った感じがする。

上がりは2軒ほど隣の「美川」という居酒屋。今度の8月3日で創業24年になるという。業 歴24年の居酒屋。誠実な商売をやってきた証だと思う。料理人としては器用には見えなかった けど、愛すべき人柄で、これがこの店のセールスポイントなんだろう。鰹のタタキの御通し。 サッポロビール(ラガー、大)、中華風冷奴で1400円だった。

夜半の旧花街を散策した後、花の湯の前で涼んでいると、女湯から出てきた湯上りの女将さん に声を掛けられる。番台でお話した時も惹かれる方だったけど、寝巻き姿の女将はチャーミン グで、そして色っぽい。70歳は超えているだろうか。小生も、このように齢を重ねたい。た だ、この花の湯をいつ畳もうかと話されていたのが、少し寂しげだった。

旧花街には、営業しているのか定かではない、「旅館」とある古い看板を掲げる建物がいくつも ある。同湯の隣もそういった類の旅館だ。営業していた。ただ、去年、碧南の旧衣浦荘の転業 旅館に一人で泊まって、気絶するほど怖い体験をした。それ以来、やや引いてしまうところが ある。

今回も日和って、渡良瀬川を渡り返したところにある眺めのいいビジネスホテルに泊まること にした。但し、通された部屋は、川と反対側の部屋で、眼下に風俗店のネオンが点滅する部屋 だった。まぁ、かなり安い料金だったので仕方がないかな。

《前回訪問:2008.06.21.》

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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