差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2016年3月8日火曜日 21:16
宛先: 銭湯ML (sento-freak@freeml.com)
件名: 井草湯(杉並区下井草)

ナカムラです。

今日(10/25)は、「井草湯(杉並区下井草)」に行ってきました。荻窪駅(中央本線等)から、1.8キロ、20分くらいです。最寄り駅は井荻駅(西武新宿線)で、こちらからは6分程度。

環状8号線と早稲田通りの交差点から少し入った所にある40年余り前に建てられた古いマンション下駄履き銭湯。広い敷地には保存樹木の大銀杏や、改築時に植えられたのだろう大きく育った棕櫚が、同湯の景観にアクセントを付けている。

3階建ての建物の中央に屋号を記した四角い煙突が白煙をくゆらせ、周囲には薪を燃す匂いを薫らせる。郊外というのもあるんだろう、東京銭湯としてはかなり長閑な風景の中にある。

昭和22年と昭和38年の航空写真を見ると、同湯は昭和20年代から30年代、畑の中に伝統的な木造銭湯として創業したことが判る。

東京の大動脈の環状8号線は、昭和2年の計画から80年、戦後の本格着工から50年を経て2006年に完成している。同湯は今の裏道ではなく、先代の建物はその環状8号線に面していた。後の道路の拡幅過程で少しだけ奥まった今の所に移転し、マンション銭湯へと改築されたようだ。

辺りは暗い。そんな中、少し離れた所から薪を燃す匂いが感じられ、紺地の屋号染め抜きのオリジナル暖簾を見渡すことが出来る。

開放的なアプローチを経て暖簾が下がる入口に辿り着くと、両サイドにはコインランドリーと飲料の自販機が並ぶ。暖簾をかき分けながら押しボタン式の自動ドアを中へ進むと、エントランスホールに、カウンターやら飲料の冷蔵庫、グッズのショウケースやらの諸々が有る。

元々は脱衣所内にある番台式だったんだろうけど、一切合切をエントランスに”出した”ような設え。エントランスがそこそこ広いから可能なんだろう。有りそうで余り見ない改造方法だ。しかし、明るく、エントランス特有の寒々しさは微塵もない。畑作兼業ではないだろうけど、日焼けしたおばちゃんがカウンターに詰めている。スタンプを貰うのは8月8日の武蔵小山・入間湯以来。最近は2カ月に一軒のペースの鈍足のお遍路になっている。

下足箱は桜の花弁に平仮名で”さくら”と刻印された旧型のものが、昔からそうだったのだろう向かい合わせに並ぶ。

ドアを開けて脱衣所に入ると、広さは幅3間、奥行4間ほど。天井は高く、伝統的木造銭湯と何ら変わることがない広々とした空間が広がる。

島ロッカーは無く、ロッカーは外壁側にシリンダ錠のもの。中央に畳張りの幅広の縁台と、それを囲むようにペンキ塗りの木組の縁台が置かれている。相客は浴室入口脇に置かれたテレビの「映像の世紀」に見入っている。アナログ体重計は、最近阿佐ヶ谷から流れてきたのか、「亀の湯」と記されたHOKUTOWのもの。その他、20円で稼働する旧型マッサージ機、「第一内科小兒科」とある大きな古い寒暖計が下がっている。

古いビル銭湯だけど、オリジナル暖簾、明るく意表を突くエントランス&フロント。何ら木造銭湯と変わらない居心地がいい脱衣所。”何が”とはいい辛いけど、いい雰囲気に心の高まりを感じる。

さて、風呂だ。浴室は、幅3間、奥行4間ほど。天井は最高部が高さ2間の緩やかなカマボコ型で、何と木板張りで、丁寧に白ペンキが施されている。島カランは1列でカラン数はセンターから5・5・5・6。床のタイル中判4枚で角が丸まった正方形が入れ子のように描かれた模様のもの。ここには、暖かさと、清潔さと、明るさ。やっとやって来て、良かったと感じる。

浴槽は、奥壁に接した深浅2槽。深槽は気泡湯。浅槽は1穴ジェット×2にバイブラ。お湯は42度強。カルキが強いものの肌触りは悪くない。薪で沸かしたお湯にじっくりと浸かる。

子供の時、通いの銭湯に1穴ジェットが登場して驚き、さらに何年かして2穴ジェットになってまた驚いた。もう半世紀近く前の話。思い返せば、1穴ジェットの時代は短かったと思う。後方にその1穴ジェットの効能が誇らしく説明されていた。ただ、”超音波”の文字が丁寧に消されている。科学的にはどうなんだろう。クレームでもついたのかな。

ビジュアルは、奥壁に丸山さんの「本栖湖(25.8.2)」。強力な換気扇があるものの、2段型の銭湯よりは換気が悪いのか絵に割れや剥がれが目立っている。2カ月位前に描き換えられた絵を中野の高砂湯で見たけど、まだ年に20作くらい描いているのかな。さらに男女境には湖、高嶺、洋館、白樺などが描かれたモザイクタイル絵。女湯はお茶目なバンビらしい。そう、女湯には籐籠の”ベイビースケール”も健在らしい。

上がりは何種類もの地サイダーの中から姫路城のラベルの姫路のサイダーを頂く。外のベンチは少し肌寒く、パーカーの下にダウンベストを着た。秋が深まり段々と冬に近づいて行くようだ。

日曜日の21:00から21:50に滞在。金曜日が定休なのと、荻窪駅から遠いのでやって来るまでに時間が掛かってしまったけど、訪れて嬉しくなるいい銭湯だった。

荻窪からの帰路はバスで駅手前の四面道の交差点で降りて「象のあし」という妙な名前の古本屋へ寄ることが習慣になっている。心憎い品揃えの気になる古書店だ。


※2016/6で休業に入っているようです。
 内容は訪問当時のものです。

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
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         郊外のほのぼのとした建物の名前









       敷地内には同湯の建物よりも古い保存樹木がある。





     ご当地サイダーがいくつか並んでいた。




          今年もやっている「銭湯で温泉まつり」




荻窪駅にあったチラシ。荻窪には零戦の栄エンジンの全量を作った中島飛行機の東京工場があった。
このチラシの上の写真はそれで、意図的だろうが、空爆対象にならず終戦まで無傷で残っていた。





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