差出人: Masayuki Nakamura
送信日時: 2015年11月19日木曜日 21:35
宛先: 銭湯ML (sento-freak@freeml.com) 件名:
共栄湯(名古屋市南区城下町)

ナカムラです。

今日(5/5)は、「共栄湯(名古屋市南区城下町)」に行ってきました。本笠寺駅(名古屋鉄道本線)から、0.6キロ、7分くらいです。

栄の名古屋三越の屋上にある、今は動いていない古い観覧車(登録有形文化財)を眺めてから、気になっていたイニシエの時代に栄えていた津島の街並みを見に行く。

昭和43年の浴場銘鑑によれば、津島には9軒の銭湯があったようだ。今も1軒だけ残る非組合の大正湯は、1カ月ほど前の4月2日の火事で釜場が激しく焼損し「しばらくの間、休業します」という張り紙があった。

さらに散策の途中で、旧町名だろうか赤い”一之町”のプレートがある旧食糧品店などの近くで、コンクリ煙突もそのままの旧向島温泉に出逢うことが出来た。

見応えがある街で、あっという間に時間が過ぎて行く。旧津島信用金庫の建物、石臼で抹茶を挽く本町筋の茶葉屋などを眺め、地酒のワンカップは無かったものの引く手あまたの「太陽ソース」のケチャップを買い求めたりしながらの3時間余りだった。まだまだ見足りない感じが残る街だった。

さて、今回の2泊3日の名古屋行の最後のミッション。本笠寺の共栄湯に向かう時間になった。

笠寺駅は待避線があって、ホームの端には「笠寺観音」の大きな看板が建っている。典型的な郊外の私鉄の駅で、何処か懐かしい印象を受ける。緩やかな坂を同湯がある大磯通りへ下って行く。

まず、隣湯の派手な屋号の「名古屋温泉」を眺める。アプローチにこれまた派手なネオンサインがある。しかし、陰に隠れたファッサードはモルタルによる看板建築になっている。駆体はかなり古いことを窺わせる銭湯だった。

共栄湯。瀬戸の日本鉱泉のように、塀というほどの高さはないものの、古いコンクリの外構がある。敷地の内外の区切り方が東京や大阪などよりも緩やか。中京銭湯の1つの特徴だと感じている。

昭和14年築の2階建て。低い塀の中にタイル張りの洋風のファッサードを持つ端正な外観。後方にはコンクリ煙突、傍らには掛り松ならぬ棕櫚の木が聳えている。そしてランナーズ銭湯の幟が立っている。子供の日だからではないだろう。子供を含め客の出入りが多く人気の銭湯だということが分かる。

自販機を挟んで男女別に入口。それぞれに二房の暖簾が下がり、関東の潜るというよりは、かき分けて入って行く。コンクリのたたきに番台がある。反対側にはSEKIYA錠の下足箱。女将さんもそのランナーなのだろうか、柔和な笑顔とともにそんな雰囲気を感じる。

脱衣所の広さは、幅2間半、奥行は1間超の緩衝地帯や入口側のたたきを合わせ、5間ほどもある。床は籐敷き。壁は昭和中期的な木目プリントの合板。天井は高さ2間の平格天井。昔は、男湯から居宅になっている2階に昇る幅の狭い階段があったようだ。ロッカーの上に一部天井を塞いだ穴がある。

男女境は銅板張りだろうか。かなり珍しい。さらに男女境には、花の”がく”のような形をした支柱が2階の床を支えている。余計なものがない、シンプルで明るく広い空間が広がっている。

ロッカーは外壁側に木製のものが整然と並ぶ。錠はSEKIYA。扉のガラスには湯気が立ち昇る立涌模様の古いガラスが使われている。何ともレトロなもので同湯に相応しい。

大きな銭湯だけに白い小タイルが敷き詰められた緩衝地帯は広い。3機のカランを持つ流しが向かい合わせになっている。ハンドシャワーながら、同湯で唯一のシャワーが緩衝地帯にあった。小生、緩衝地帯で湯上がりの水シャワーを使っている人に遭遇したことはない。しかし、このシャワーはそういった習慣の名残なんだろうか。

浴室の広さは、幅2間半、奥行3間ほど。天井はプラ板張りの船底天井で、中央に湯気抜きがある。島カランはなく、カラン数はセンター側に8機、外壁側に9機。床のタイルは濃紺を淡いブルーで包み込んだようなデザインのものが使われている。

中京の銭湯は予めカランの前に椅子が置かれている場合が多い。手間が省けていいのかも知れないけど、見渡した時にやや雑然と見えてしまう。レトロな銭湯ながら見事な統制美を誇るとの思い込みがあったので、勝手な先入観とは少々隔たりがあったかな。

浴槽は、小判型の深浅のセンター浴槽とガラス越しに奥の庭を見通すことが出来る奥壁の前に、弱電気の浅槽、強電気の深槽、ジェット×2の浅槽の3槽が並ぶ。名古屋は井戸が少ないのだろうか、お湯は水道水をおそらく薪で沸かしている。湯温は42度くらい。柔らかないいお湯だ。

浴槽の縁の細やかなタイル遣いや、縁の立ち上がりが垂直ではなく、あたかも大地から木が生えるがごとくアールで処理されている。そんな中京レトロ銭湯の典型様式がある。

絵などのビジュアルは特にない。しかし、浴室奥に奥行1間もある庭が広がる。塀の内側に檜皮を張った凝ったもので、煙突の傍らに庭池、築山が設えられ、さらに夕方のブルーな景色にツツジの花の鮮やかな色が印象的だった。

子供の日の火曜日の夕方17:50から18:40に滞在。愛知県の浴場組合加盟の銭湯では菖蒲湯をやっているということなので期待していたけど、その気配は無かった。しかし、脱衣所と浴室も広々として気持ちがいい。優しい感じの女将さんの対応とともに、外観、脱衣所、緩衝地帯、浴室、庭、コンクリ煙突と全てに端正な印象を受けたいい銭湯だった。

帰路はJRの笠寺駅から名古屋駅に戻る。住宅地の名鉄の本笠寺駅と違って貨物列車も停まっているような構内が広い駅で、時折、機関車のホイッスルが夜空に響く寂しさがあった。高架を、我々が待っている東海道線よりも頻繁に、新幹線が凄い早さで通り過ぎて行く。

そう、10年近く前の5月の連休だったと思う。名駅の「桜湯」で図らずも菖蒲湯に入ったことを思い出した。今回、その近くに宿を取ったけど、2年程前まで残っていたレトロ極まりない桜湯の建物は、周囲と同じく駐車場になっていて、再会出来なかった。

*************************************************
ナカムラ (Masayuki Nakamura)
URL: http://furoyanoentotsu.com(風呂屋の煙突)
*************************************************














                                    大磯通り




                                   本笠寺駅









                    参詣客が多かった時代の雰囲気が駅に残っている









                               JR笠寺駅の跨線橋から




                                    JR笠寺駅

目次へ