差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2005年8月26日金曜日 23:23
宛先: 銭湯ML
件名: 野町湯(金沢市野町)

ナカムラです。

今日(8/23)は、「野町湯(金沢市野町)」に行ってきました。
金沢駅からはバスで15分ほどかかる。
野町辺りは、金沢城の外堀の機能を担った犀川を外に出た、金沢の下町といういう位置づけらしい。

近くには、遊郭跡の「にし茶屋街」、遊廓・赤線跡(石坂有楽園)の旧石坂町がある。
にし茶屋街は観光地化され女性も一人で歩いている。
100メートルくらいしか離れていない旧石坂町は住宅地と化していて、カメラを振りまわすのが躊躇われる感じの街だった。
でも優美な赤線建築の持ち主が、「綾乃家」という屋号や、内部の話をしてくれたりと、初訪にしてはそれなりの収穫があった。

夕方、日没と競争しながら赤線地帯の建物を撮影していると、飲み屋から歯がない婆さんが出てきて、

(婆)遊びに来たの。
(小生)こういった古い建物に興味があるので・・・。横浜から来ました。
(婆)若い女の子はどぉ。
(小生)・・・・・・。

 でも、女性が目当てではないと感じたらしく、
(婆)ここら辺りはそういうところだから、歩いてると声を掛けられるよ。

迂闊にも気が付かなかったが、通りは夜に近づくとともに、遣り手婆さんが椅子を出して、団扇で蚊を叩いている。
良く見れは、不自然に多くの看板が付いた、モルタルアパート風があったりする。

極めつけは、小さなスナックの前に椅子を出して、気だるく客を待つ女性が何人も視界に入ってきた。
迂闊だったけど、現役の色街だった・・・。
別にこの手の街を歩くのは平気だけど、予備知識がないと焦る。
写真なんか撮っていると、用心棒に声をかけられたりもするだろう。

前置きが長くなったけど、野町湯はそんな街の近くにある。同湯も金沢で最もレトロな銭湯らしい。
色街周辺には床屋と、いい銭湯が多い。

同湯は、北陸鉄道石川線の始発駅である野町駅のすぐ傍らにある。
なんでこんな町外れに始発駅があるのという野町駅だけど、昭和46年まではここから路面電車(北陸鉄道金沢市内線)があって、兼六園でもどこでも行けたようだ。

そんなターミナル駅方向から客を誘導するためか、同湯へのアプローチは、異彩を放っている
駅前には「野町湯」という行灯型の看板が出ていて、屋根の架かった通路、同湯内部の通路と、暗く細い通路を通り正面にでなければならない。
もし間違っていれば、知らない家にドロボーに入る趣だ。壁を通して、耳が遠い婆さん同士の会話が耳に入ったりする・・・。

男湯はこの通路から正面を経由せずにアプローチできる。
カーテンも架かっていないので、若いご婦人が来湯した場合は、目を剥くだろう。(まぁ来ないだろうが・・・)

正面入口は細い路地に面している。
正面に章仙画のタイル絵。章仙氏の地元だからというわけではないだろうけど、通常見かけるものよりも大きいし、精巧な作に見える。
その左右に「ハ」の字型に入口がある。戸がまたレトロ。上部に金色で「殿方」とある。使われているガラスも優美だし、取っ手は斜めに真鍮の棒を渡している。

脱衣所は、幅は2間半、奥行きはコンクリのたたきの部分を入れて3間半くらい。
天井は、チープな材のようだけど、折り上げ格天井。格子はモスグリーンで天板は白く塗られている。

下足箱が左右にある。一方は番台と一体となった造りで極めて珍しいもの。特に傘を収納する構造が凝っている。
錠のメーカーは見忘れたけど、小振りの真鍮製のもの。ひとつ試したが錆からかうまく作動しなかった。

脱衣籠が主力のようだけど、外壁側に木製のロッカー。扉の真中にガラスが嵌められたもの。取っ手のみで錠は付いていない。
下足箱に錠があるのにアンバランスな感じではある。

男女境にはレトロな広告が並んでいる。アナログの体重計は、日本海衡器工業梶i金沢)のもの。
半間ほどの緩衝地帯があり、曲線を多用した凝った流しが設えられている。

浴室は幅2間半、奥行3間半。
天井は高く船底天井に長方形の湯気抜きが開いている。高さは4間近くはある感じ。湯気抜きの屋根は波板が渡された簡素なもの。

島カランは小さいものが1列で、外壁側に6、奥壁に1、島カランに2・2、センターに2という配置。カランは赤・青のレバー式のもの。

浴槽は、センターに接した大小2槽。
奥壁側の副浴槽は座ジェット&バイブラが2座。
主浴槽は浅い部分がバイブラで、広い部分は深く何の仕掛けもないもの。温度は43.5度くらいか。

いつもより熱いらしく、常連から「よくは入れるなぁ。遠慮せず埋めりゃいいに」と言われる。
まぁ、東京銭湯に浸かる者としては、我慢しなければならないという温度でもない。

水風呂はないけど、井戸水なのか、カランの水が冷たい。
湯につかり、冷たい水を浴びる。快適・極楽・・・。

ビジュアルは、奥壁一面が洋風の山の絵柄のモザイクタイル絵。
脱衣所側の上にもモザイクタイル絵があって、こちらは富士山が描かれている。
ご常連も女将さんも、女湯の方がいいんだけどねと。

フィルムカメラであれば、撮ってこようとしてくれたみたいだった。
しかし、デジカメを見たら使ったことがないと諦められてしまった。

13:30からやっていて、ご常連は夜はガラガラだと言っていた。
内部は清潔に保たれているし、構造も変わっている面白い銭湯だった。

帰りは、また赤線地帯を通り片町の飲み屋街へ。
「串揚げさくさく」という小さな串揚げ屋に入った。

この店の隣に住んでいる、小生より年配の方と、その母が食事していた。
「野町湯」に入りに来たと、金沢への来意を告げると、表情が変わった。

この方は金沢の銭湯、立ち寄り湯をほとんど制覇している方だった。
お母様からは、ひがし茶屋街の「東湯」の艶っぽいいにしえの話を伺った。

話は楽しかったし、串揚げ、特に釜飯は絶品だった。
さきほどのおばあさんは、お隣さんにつき、釜飯を釜ごと「テイクアウト」していた。

酔って気分も良かったので、香林坊裏の新開地(青線跡?)を散策・・・。
ここも現役なのか、またお婆さんに若い女の子を勧められた。