たつの湯（練馬区石神井台）

差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2011年6月23日木曜日 23:39
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: たつの湯（練馬区石神井台）

ナカムラです。

今日（6/18）は、「たつの湯（練馬区石神井台）」に行ってきました。武蔵関駅（西武新宿線）から、1.2キロ、15分くらいです。

初台の東京オペラシティアートギャラリーにホンマタカシの写真展「ニュー・ドキュメンタリー」を見に行く。いい写真もあったけど、基本的に何故この写真家の評価が高いのか自分には理解できなかった。。。

かなり雨脚が強くなった中、西武新宿駅から武蔵関駅を経由して大泉学園の「たつの湯」へ。

関町北、大泉学園と畑の中の道を延々と進む。コンクリの煙突が見えると、程なくして早稲田通りの旧道に面する同湯にたどり着く。

元々幼稚園にと考えていたという敷地は広い。建物の前には独立したコインランドリー棟と、ゆったりと10台以上が停められる駐車場が広がる。

その奥に堂々とした伝統的木造銭湯が鎮座。周りに高い建物が一切ないので、広い夕空の下、これでもかというくらい昔ながらに黒煙を立ち昇らせている。

エントランスの破風は、唐破風の幅をいくぶんか狭めた感じで半円に近い形をしている。懸魚などはないものの丁寧に整備され、内側がオレンジ色の光でライトアップされている。かなり期待が高まる面構えの建物だ。

暖簾を潜れば左右にたくさんの旧型さくら錠の下足箱が並ぶエントランススペース。なぜか、下足箱の扉が左開きのもと右開きのものが混在している。

番台への扉を開ければ、前面がカーブし木目プリントの新建材を張った番台。思わず"ここの前は下町で銭湯をやっていたんですか"と聞いてしまったくらい、祭り半纏が似合いそうな髪型と風貌のイナセな大将が座っている。

脱衣所の広さは、幅3間半、奥行3間半ほど。天井は“フィッシュボーン”の船底型。高さもやや高い感じがする。円柱の大黒柱を見て驚いた。よく見れば梁も鉄骨で組まれ、接合部はボルト締めになっている。伝統的木造銭湯ながら構造は鉄骨造のようだ。伝統的銭湯ながら実は鉄筋コンクリート構造という和光市・浩乃湯にも驚かされたけど、それに匹敵する。構造材の面でかなり異色の銭湯と言っていい。

同湯の築創業は昭和39年。伝統的木造銭湯としてはかなり後発の部類に属している。その頃になると、浩乃湯を含め構造面など、かなりバリエーションがあったのかも知れない。

脱衣所は清潔で明るい。外壁側の半分くらいが幅1間ほどに拡幅された形状で、次の間のようになっている。

島ロッカーは、SakuraⅡ錠のものが縦置きと横置きに1つずつ。その他、Keihokuのアナログ体重計、FUJIDENKIの業務用扇風機。古い扇風機は火災発生の危険性が高いが、梁に据えられた扇風機はどう見ても30年は越えている代物。大丈夫だろうか。。。

前庭は、かつての岩に囲まれた庭池は埋められ、小ぎれいに小砂利が敷かれている。そこに椅子を並べ、喫煙スペースになっている。

武蔵関からの途中の道ばたの「野菜スタンド」で100円也を投じてモロッコいんげんを買った。同湯の脱衣所でもインゲンやキュウリを100円で販売していた。さすが周りに畑が広がっているだけのことはある。

浴室は、幅3間半、奥行4間半と大型だ。島カランは余裕を持たせた1列のみで、カラン数はセンターから7･5･5･6。立ちシャワーすらないシンプルさ。そして、一部蛍光灯は節電対応で消されているものの、それでも明るく、清潔さが際だっている。

はた目には分からないものの配管が傷んでいるらしい。この10月に1カ月ほど休業して、浴室の中普請を行うという。今もカラン島が1つでゆったりとしたカラン配置。だけど、さらに1 列のカランの数を5機に減らし、身体が大きくなった客に快適なスペースを提供するという。

浴槽は、奥壁に幅3間のかなり幅広のものが1つ。バイブラ、3点ジェット×2、何もない素の部分の3つの部分がある。そして、42度くらいの清澄なお湯が満たされている。

イナセな大将は、初めての客には「熱かったらいくらでも水入れてね」と声を掛けている。「せっかく来たんだ、みんなに気持ち良く入ってもらいてぇんだぁ・・・」と。主張と自信を感じる言葉だった。

なみなみと水を注ぎ入れれば、入ったときに上面のお湯が流れ出て、清潔さが維持される。いくら温くなっても、2、3分も経てば元通りの温度に戻るという。

大将は、開店の支度を終えたら、毎日客とともに一番風呂に入る。客の目線でお湯や風呂場を見るためだ。

小生、立川談志師匠の「湯は裏切らない」という言葉が好きだ。裸電球が灯るあの鎌倉・滝乃湯（廃業）に出会い、熱い実母散の湯に浸かりながらこの言葉を反芻していた。ある意味でこの言葉に救われたという思いもある。師匠がこの近くで、時折、同湯にも訪れるという。。。

また、早稲田実業のグラウンドが近かったらしく、高校球児だった荒木大輔選手も通ったようだ。脱衣所をビチャビチャにする代のチームは弱く、そうでない早実のチームは強かったと風呂屋的な分析をする。

ビジュアルは、中島さんのペンキ絵。「他と同じじゃつまらないじゃない」というわけで、大将は中島さんにいつも絵柄の注文を付ける。時に中島さんの手に余る注文もある。

今の絵は「雲上の富士」と、女湯は「雪の松島（22.9.20.）」。ペンキ絵の絵柄はあまり季節感を出さないのが定石。雪の松島などはかなりの異色作だと思う。昨日行った、東上野松が谷・大久保湯の女湯のペンキ絵が雪がないものの同じ松島で、描かれた時期が同湯より10日前だった。

長い男女境には絵付けのタイル絵。古くはないものだけど、満開の桜の間に錦帯橋が架かる絵柄。明るく清潔な空間に春の淡い桃色がとてもマッチしていた。女湯は紅葉らしい。。。

上がりは、缶牛乳しか無かったので久し振りにビックルを頂く。

土曜日の19:40から20:30に滞在。入った時は客が途切れ小生だけだったけど、その後は客がそこそこ入ってきた。いい風呂屋だけに繁盛もしている。

自信の湯は熱くなく温くなく、そして清澄極まりなかった。。。

25歳で銭湯の世界に入った大将は還暦を迎えた。秋の中普請を期に風呂屋稼業を離れ、家督を二代目に譲る。後継ぎがいるという幸福な銭湯だ。

60歳といえばまだ男盛り。どうされるんですかと問えば、「競輪と競馬かなぁ」と煙草の煙とともにはぐらかされてしまった。。。

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ナカムラ　（Masayuki Nakamura）
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