差出人: Masayuki Nakamura <masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp>
送信日時: 2012年2月25日土曜日 8:31
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: 稲荷湯(中区大和町)

ナカムラです。

今日(2/19)は、「稲荷湯(中区大和町)」に行ってきました。 山手駅(根岸)から、0.6キロ、7分くらいです。

横浜の日の出町駅近くにあって、米兵相手の高級連れ込み旅館として営業を開始したという「龍宮 美術旅館」。来月で営業を終え、じきに解体されるというので見に行く。個人宅を経て空家だった頃 から知ってたけど、カフェ部分より奥に入るのは初めて。3枚の絵付けタイル絵や東郷青児風の硝 子絵がある浴室は見応えがあった。ただ、ギャラリーとしては荒っぽい使い方にちょっと閉口する。 作品もまぁ、美大の卒展の足下にも及ばないレベルだったかな。

いつの間にか、横浜駅の月見橋際にある古レールで組まれた跨線橋が閉鎖されていた。すぐ近くに 立派な地下道ができたので仕方がないけど、夭折の画家、松本竣介が独特の煤けたタッチで「Y市 の橋」として何度も描いた跨線橋。古い横浜の風景。終焉が近いようで、一抹の寂しさを感じる。

中華街。いつもに増して人出が多い。豚まんを買い喰らうものの、歩道で食べるのに難儀するほど。 でも、江戸清の豚まんは、あっさりしていて美味しかった。

そして、ホテルニューグランドの「ザ・カフェ」で”喫茶部”。このカフェを楽しみにしていたけど、 老舗ホテルのカフェながら、内装、コーヒー、ケーキともファミレスかと思うくらいの体たらくで 落胆。。。ただ、ブライダルフェアが開かれていて、2階の各宴会場を観ることができたのは収穫だ った。

そして、やっと元町を経由して山手の稲荷湯へ。。。道路が混んでいたので2キロほどを徒歩で移動 する。途中の歴史ある麦田のさくら湯が未だ盛業中なのを確認する。

大和町の稲荷湯は、南区の貴浜湯が戦災で焼け、先代が1946年にここ大和町で再興を果たした銭湯 だ。向かいの大和町フードセンター跡の後ろに屋号の由来となった第六天稲荷の小さな社がある。

大和町フードセンターは、横浜のそっちこっちにあった、一通りの食材が揃うという個人店の集積 で人が集まる場所だった。3年ぶりに来ると最後の魚屋が撤退していて、1階すべてが駐車場になっ ていた。建て替えるほどの価値もないということなんだろうけど”兵どもが夢の跡”、余計に無惨な 姿に映る。

ちなみに、同湯が面し、真っ直ぐに山手駅まで長く延びる大和町商店街は、明治期の駐在イギリス 軍の射撃場の名残り。突き当たりの根岸外人墓地の斜面に数百体ものGIベビーが眠る。観光地の 山手外人墓地とは違って、戦争の暗い歴史を引きずっている。

さて稲荷湯。エントランスは、屋号を記したタイル張りで、横浜式の左右横向きに開口部があるも の。オール木製の下足箱の錠は同じ中区の山元町の各種錠前製造の「末広錠製作所」のもの。金属 製のものは報徳湯(横須賀衣笠)竹の湯(横須賀田浦)天神湯(横浜)などで見ることができる けど、かなり珍しいものだ。

脱衣所は木組みの番台。折上げ格天井。モールガラスが多用されている木製建具の数々。温泉を堀 り当てた1961年頃の昭和中期的な豪華なシャンデリアも見逃せない。

東日本大震災では、神奈川県223軒の銭湯のうち7軒が被災した。その中でも同湯は配管にひびが 入り、煙突の一部が崩れるなど、最も深刻な影響を受けた1軒だった。ただ、お湯が漏れ燃料が倍 かかろうとも休まず可能な限り営業を続けたそうだ。希有な心意気の銭湯だ。配管を変えたからだ ろうか、浴室の床などが、古いタイルから新しいタイルに替わっていた。

全てが典型的な伝統的木造銭湯。そんな郷愁空間で久し振りの黒湯に入って丸山さんのペンキ絵「潮 岬(22.8.●〔広告板に隠れていた〕)」を眺める。極楽至極。

敷地(煙突の位置)の関係で浴室は変則的な形状。そのため、小石タイルの浴槽、鈴榮堂の池と鯉 のタイル絵、ペンキ絵とも2段折れの比類ない形をしている。白磁の彫刻の古い湯口が機能してい るのも珍しい。

日曜日の18:10から18:55に滞在。1日の客は90人ほどらしい。この時間の相客は10人強。決し て多くはないものの、もう暫くは続けてくれそうだ。

上がりは、今や焼き鳥屋ばかりが目立つ大和町商店街の最も元町寄りにある「鳥京」。相方の方が目 鼻が利くので、もっぱら店の選択は相方に任せている。煙がもうもうと出ているのは、客の注文が 多いからだろう。小さいながらカウンターには果たして客が一杯。手頃で美味しい、当たりの店だ った。

帰路は山手駅で京浜東北線に乗って1本で帰ることができる。しかし、80分近く掛かる。かつてホ ームタウンだったヨコハマ。遠くなりにけり。。。

《前回訪問:2008.10.12.》

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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        稲荷湯の向かい。通路の奥に稲荷神社がある。



         横浜駅跨線橋。松本竣介が繰り返し描いている。既に供用を終えている。



               横浜ホテルニューグランド
















            日ノ出町・龍宮美術旅館









京急・日ノ出町駅 埋め立てが進む前の三浦半島