差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2008年10月12日日曜日 22:05
宛先: sento-freak@yahoogroups.jp
件名: いなり湯(横浜市中区大和町)


ナカムラです。

今日(10/12)は、「いなり湯(横浜市中区大和町)」に行ってきました。 山手駅(JR根岸線)から、0.6キロ、6分くらいです。

3連休は、館山(梅の湯)、上田(柳の湯)・小諸(鶴巻の湯)、蒲郡の赤線跡探索などをイメー ジしていた。蒲郡は調査不足なので、館山・梅の湯に照準を定めて、10月10日に電話を入れ た。あろうことか、80歳をこえる店主から、前日(10/9)を以て明治25年からの歴史を閉 じたと伝えられる。

10月10日は「銭湯の日」なのに、何て中途半端なところで息絶えたんだろうか。。。

ということで、昨日は横須賀銭湯(報徳湯)の再訪。今日は、愛車・鈍太郎号(折り畳み自転 車・パナソニックトレンクル)とともに市営地下鉄・吉野町駅に降り立つ。

8月末に廃業した駅上の「大和湯」は解体中の無残な姿を晒している。同湯は、銭湯建築とし ては凝りに凝ったものだった。それは、花街の銭湯だったからかも知れない。同湯のある吉野 町と隣の新川町は、かつて「日本橋(にっぽんばし)」と呼ばれた花街だった。

近年まで「日本橋」と書かれたアーチが残っていたけど、今はそれを引き抜いた跡だけが残る だけ。永楽町、真金町が、永眞カフェー街と呼ばれた純然とした色街でったのに比べ、こっち は料亭を中心としていたようだけど、どの程度、色町部分がオーバーラップしていたのかは分 からない。

検番や主だった料亭跡はマンションに替っている。神経を研ぎ澄まして、虚心に街を眺めるも のの微かな痕跡しか窺えない。

「日本橋」から、中村橋、元町、山下公園、新山下。そして、見晴らしトンネルを抜けて山手 などを2時間くらい鈍太郎号でポタリング。自転車で回れば、意外にも横浜の中心地は広くな いものだと感じる。

銭湯も、桜湯、山下館、泉湯と回って、16:00頃走っていた、山手の「いなり湯」に入る ことにした。

戦争での焼け野原に、昭和22年、横浜市が3軒の銭湯を作った。同湯がその1軒だ。そして、 昭和36年に黒湯温泉を掘り当てて現在に至っている。

脱衣所棟は平入りで、飾りの千鳥破風が載っている。エントランス部分は、タイル張りの直方 体の箱が付いているという典型的な横浜レトロ様式から成る。しかし、後方のコンクリ煙突が やや太く短い。どちらかといえば名古屋的だ。

「いなり湯」という紺地のオリジナル暖簾をくぐれば、下足箱がエントランス部に整然と一列 に並んでいる。一部松竹錠に置き換わっているものの、大半は指しもの師が作ったと思われる オール木製錠だ。そして、番台裏の傘入れロッカーの錠は小ぶりの「末広錠」。傘入れの末広錠 は初めての遭遇かも知れない(再訪だけど)。

番台への戸は自動ドア。450円を払って、畳んだ自転車を2列ある島ロッカーの上に置かせ てもらう。6.5キロしかない自転車なので風呂に入る時は畳んで脱衣所に持ち込むことにし ている。まぁ、スタンドを付けていないので、立たないというのもある。

脱衣所の広さは、幅3間、奥行3間弱。天井は折上げ格天井で、今は使われていないもののゴ ージャスなシャンデリアが吊るされている。銭湯で見たシャンデリアとしては最も豪華なもの かも知れない。客が多いこの銭湯の最盛期を偲ばせる一品だ。

脱衣所は、その他に、立派な「大入」の額、相撲関係の色紙や写真、彫刻、サントリーの柳原 良平氏のアンクルトリス絵(横浜赤レンガ倉庫がバック)、演歌歌手のポスターなど、数も多く 実に雑然としている。相撲関係は宮城野部屋の後援会をやっている関係、置物は客が土産で持 ち込んだものを律儀に飾っている。演歌歌手のポスターは、実際に同湯の脱衣所で歌った関係 のもののようだ。さらに、コインランドリー設備が大々的に脱衣所に持ち込まれているので、 雑然さに拍車がかかっている。でも、雑然とはしているものの清掃は行き届いている。なかな かいい感じの脱衣所だ。

浴室は、幅3間、奥行は4間。島カラン2列で収容力重視のイニシエの浴室風景だ。タイル類 は、8角形の白タイルとブルーの正方形タイルを組み合わせた床タイル、浴槽周りは小石形タ イルとなかなかレトロな感じが残る。

浴槽は、釜場への通路を挟んで、男女境に黒湯槽、外壁側に変形のL字型の浅槽になっている。 黒湯は、濃度もコーラほどとやや淡い感じで、黒湯独特の香りも感じられなかった。半分が電 気風呂になっているのでやや落ち着かない。

浅槽はコーナーが少しえぐれている構造につきブーメランのような構造になっている。その屈 曲点に大理石ビーナス像の焚出し口がある。内外は淡いブルーの小石タイルで構成されていて なかなか充実した素材で構成されている。

同湯の浴室への扉は、番台への入口と同様にセンサーで稼働する自動ドアになっている。浴槽 に浸かっていると、ゆっくりと自動ドアを開けて、悠然と猫が花道をこちらに向かってくる。 そして、釜場への入口に座って毛繕いを始めた。聞けば、同湯の飼い猫というとことだけど、 浴槽に浸かってて猫とコンニチワしたのは初めてだ。。。

ビジュアルは、男女境に定番のモザイクタイル絵。脱衣所どの境のサッシのガラスにはスリ硝 子で裸婦像が描かれている。奥壁には丸山氏のペンキ絵「(沼津市)戸田(へだ)12.7.4.」。そ の下には池に鯉のタイル絵。鯉の目の部分が白眼になってしまっていて、少しだけ不気味だ。

タイル絵もペンキ絵も、変形の浴室構造をなぞるように、3か所の屈曲点を持つ。山・谷折り は違うものの、どことなく折り込まれた屏風絵の雰囲気がしないでもない。なかなか珍しいペ ンキ絵だし、タイル絵だと思う。

同湯にビールは無かったものの、自転車なので外で買うわけにもいかず、同湯で白牛乳100円 を頂いた。

帰りも、やはり自転車を担いで飲むのが億劫になり、山手駅から横浜経由で帰館する。自転車 だと行動範囲が広がるものの、飲んで走るわけには行かず、さりとて飲んだ後に担ぐのも面倒 だ。便利だけど、飲みという点では、一長一短かな。

《前回訪問:2003.05.24.》

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ナカムラ (Masayuki Nakamura)
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山下館。後ろは港の見える丘公園に繋がる高台。





中村橋


泉湯





大和湯(8月末廃業、解体中)