松の湯（横須賀市佐野）②

差出人: Masayuki Nakamura [masa-nakamura@mpd.biglobe.ne.jp]
送信日時: 2004年12月12日日曜日 15:44
宛先: 銭湯ＭＬ
件名: 松の湯（横須賀市佐野町）

ナカムラです。

今日（12/11）は、「松の湯（横須賀市佐野町）」に行ってきました。
衣笠駅（ＪＲ横須賀線）から、１．２キロ、１５分くらいです。

まず、松の湯とは反対方向、やはり１．２キロくらいの「明徳湯（横須賀市平作）」。
古銭湯であれば、明徳湯に浸かってとも思ったけど、趣がなさそうだったので外観だけ写真を撮って引き返すことにした。

明徳湯は、煙突からすると古くからの銭湯のようだけど、コミカ風呂って書いてあったから、中は改装されているよう。松の湯へ転進。３０分くらいか。

途中で、旧「宝の湯（佐野町）」と名称不詳の銭湯跡の駐車場を撮影。宝の湯はもう何年もそのままみたいだけど、地主に更地で土地を返還するための、解体費用が捻出できないのかな。小さな木造銭湯だけど、解体費用は５、６百万円もかかるらしい。

さて、松の湯。１年半振りの再訪。横浜の人が、戦災にあって、知人を頼ってこの地で銭湯を開業したことに始まるらしい。現在の建物は昭和３５年築。

借金で建てたということらしく、そのせいか、どちらかというと簡素な造り。下足箱の錠は木造りだし、格天井なんかもない。浴室のオリジナルのタイルは白無地だし、四角い湯気抜きの天井はタキロンというか合成樹脂の波板になっている。男女境もザラザラガラスで、タイル絵やモザイクタイル絵などがない。

唯一、入口に小振りの章仙画の福助のタイル絵がある。これは、小さいけど、愛嬌があるいい福助だと思う。

ただ、同湯最大の特徴は、北鎌倉の新世美術の故笹野富輝氏のペンキ絵が残る貴重な銭湯ということ。神奈川の銭湯では、新世美術の２代目、笹野修治氏のペンキ絵は目にする機会があるけど、富輝氏のペンキ絵はここしか知らない。大正３年生まれ、亡くなってから１０年くらい経つのかな。

町田忍さんの「風呂屋の富士山（ファラオ企画）」によれば、新世美術は、昭和２２年に白日会や太平洋美術の会員だった水野富美夫氏、熊沢観明氏らと設立したもの。そういえば、熊沢観明氏揮毫の扁額が「神明湯（横浜市保土ヶ谷区）」に架かっていた。そして、水野氏も熊沢氏も何日かかけてペンキ絵を完成させていたようだ。東京の絵師とは違う仕事振り。どんな絵だったのかな。

同湯男湯の富士山は富輝氏のもの、女湯には洋館の絵らしけど、これは修治氏に手によるものらしい。女将の話では、２代目の奥さんと、３人でやってきて描いたと。

ややくすみや剥離が出てきているが、再会した薄紫がかた富士は特徴的でやはり神秘的。前景の半島や松にも気品がある。生前、富輝氏も年に１回くらいふらっと顔を出したらしい。そして、この富士はよく描けたと。

横須賀の小銭湯（脱衣所：幅２間強、奥行２間、浴室：幅２間強、奥行３間）。薪焚きの落ち着いた湯に、身を沈めながら富士を眺めていると、心が落ち着く。

帰りは、遠いけど、常磐湯、のぼり雲、斗の湯、大徳湯、あたり湯、柏木田遊郭跡、当世館浴場、桃の湯、大黒湯を経由して、JR横須賀駅まで歩く。途中、レトロな看板建築が多く残る上町商店街の「春日野」という、古い蕎麦屋で熱燗と蕎麦で休憩。

横須賀中央の繁華街、ジャス喫茶「茶蘭花」の前で路地裏の夜景を撮っていると、割烹着を着た小料理屋の女将が声をかけてきた。通りに聞こえる生バンドを聞きながら、「ジャズはいいわね。あたしらはそういう時代をやってきたから・・・。」

横須賀がファナティックな興奮に揺れていたのは昭和４０年代前半。今は割烹着を着てるけど、かつては、ジャズ、ウィスキー、米兵、タバコの煙、そんな横須賀でジャズに身をゆだねていたのかも知れない。



	オール木製の下足箱